デートからの

「そういえばずっと気になっていたのですが、何故俺には様付けなのですか?ライカにはつけないのに。俺もつけなくていいんですよ?」

ルドは首を傾げ、そう聞いた。


「いえ、何というか…ルド様からは、そのような気安さを感じられなくて…当主、そう当主様なので、つい、様をつけてしまいます」


初めて会った時からずっと様付けで呼んでるので、突然言われた事に戸惑ってしまう。



「なるほど」

理由としては納得するところもあるが、ルドは便宜上の名ばかり当主だ。


母国にいられなくなった事もあり、ティタン付きの騎士になるため、家名を変更し子爵位までも与えられた。


長子であることからルドが当主として選ばれただけだ。

ここアドガルムに来た最初の頃は、周囲との隔たりを埋めるため必死だった。


皆が皆、ルド達を歓迎してくれているわけではなかったからだ。


ライカが短気なのもあり、周囲と衝突することも多く、辟易したのが思い出される。


それでも徐々にティタン以外にも剣技と人柄を認められ、信用され始めると周囲の空気も変わった。


ほんの数回だが、王太子であるエリックの護衛騎士についた、という実績も良い方向に影響を及ぼした。


その後はずっとティタン付きの護衛騎士となり、現在はミューズの護衛騎士も兼ねている。


「なかなか言う機会がなかったので今伝えますが、俺もライカと同じ呼び捨てがいいです」


数年一緒にいて、ようやく言うことが出来た。


饒舌に話せるのも、今日のような二人っきりになれた時を考え、頭の中で何回もシミュレーションしていたからだ。


双子の弟ライカがはっきりと言う性格のため、ルドは反対に静かにしていただけで、割と心の中ではお喋りだった。

常に自分の意見を言う準備はしていた。




「それはちょっと…気がひけますね」

チェルシーの苦笑い。


ルドは少しがっかりする。

脈はないのだろうか。


「俺よりもやはりライカの方がいいですよね」

しょんぼりとしたルドにチェルシーは慌ててしまう。


「違いますよ!ただ、兄弟なのにルド様はとても落ち着いてらして、品もあって、侍女達も皆憧れてる存在だから、言いづらいのです!」


「憧れ…ますか?落ち着いてるというか、俺は言葉が少ないだけですよ」

「いえ、ティタン様の補佐として、よく書類についてや、領地の話などをされてますよね。ライカはその点はさっぱりだし、ルド様はティタン様からも一目置かれてる存在ですから」


ルドはそのような事は意識していなかった。


考えることについては自分の仕事なだけ、と昔から思っていたので、周りからそう見られているとは思っていない。

一線引かれているとしか感じていなかった。


「僭越ですが、尊敬されてるということでしょうか?」

「そうです!皆の王子様です!」


ルドは思わず吹き出した。


「俺が王子って…本物の王子様いるじゃないですか」


主のティタンは元第二王子だ。


今は臣籍降下し新たな公爵となったのだが。


「いやぁ、やはり女の子の憧れはスラッとした美形といいますか。ミューズ様には悪いのですが、ティタン様はミューズ様以外には凄く雑ですし、皆の憧れとは少し違うんですよね」


ルドはふと主を思い出し、その行動を思案する。

「否定出来ませんね」


王子時代には、ほぼ身体を鍛えるために時間を費やしてきた人だし、その後は公爵位を継ぐための勉強に時間を割いた。


人の感情の機微については感が鋭いのだが、ミューズ以外の女心は全くわからないらしく勘も働かない。


人当たりはいいので好かれてはいるが、世の言う王子様とはギャップがあるやもしれない。


「そうなるとルド様があたし達の癒やしなのです。ライカもティタン様寄りの人種なので、ないですね」

「癒やし…」


そういうのはもっと可愛くて愛でたいものが対象なのではと思うのだが。


目の前の女性のような。


「俺の癒やしはチェルシーですね」

「はいぃぃっ?!」


思わぬ出た大きい声に、周りがこちらを見る。


思わず口を押さえ身を小さくした。

逆にルドが少しでも周囲の視線から庇うように、体の位置を変えてくれる。

やはり優しい。


「俺の本心ですよ。今日偶然にも街で会えて、一緒にカフェに来ることが出来るなんて、とても嬉しいです」


チェルシーは言葉が出てこない。

相手がルドだからだ。


嘘は言わない人だ。


「先程あなたが結婚を急かされてると聞き、だいぶ焦りました。辞めてしまうのは寂しいし、他の人が隣に立つなんて嫌です。ライカだったらまだ諦めもつきそうですが」

「絶対ないです」

そこははっきりと否定する。


「ならば俺はどうですか?名ばかり子爵で領地もありません。俺も生涯スフォリア家に尽くそうと考えています。隣にチェルシーが居てくれたら心強いし、何より楽しい。俺の妻になってください」

「あぁ〜…」


チェルシーはあまりの言葉の破壊力にソファに横たわってしまった。

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