#004 戦士の少女④

「今日も、来たようだな」

「ソレはもちろん! でも、シショーの方こそ、大丈夫なのか?」

「大丈夫だ、問題無い」


 早朝、トレーニングに参加するヒスイが、やつれた表情のクロノを気遣う。


「それでは私は朝食の準備をしてきますので…………あまり、無理はしないでくださいね」

「こ、これくらい、余裕だぞ!」


 妙に肌が艶やかなアイリスが、2人とわかれて朝支度へと向かう。


 このハーレムには他にも数名の住人が居るものの、基本的には人材の偏りもあって人手不足。主人も含めて持ち回りで足りない部分を補い合っている。


「それじゃあ始めるか。好きにかかって来い」

「おう!!」


 武器こそ柔らかな木剣だが、開始早々、師匠に斬りかかるヒスイ。


「甘いな」

「ぬうぇ!? ……ぐへっ!!」


 斬りかかる手首を捻るように受け流し、そのまま投げ飛ばす。わけも分からず地面に叩き付けられ、言葉にならない声が漏れるが、それでもヒスイは起き上がる。


「また、受け身が取れていないな。意識せずに、勝手に取れるようになれ」

「おう!!」


 非常に抽象的な指示。当然ながらソレで覚えられるものでは無いが、しかしながらヒスイにはソレが合っており、爽快な表情を浮かべている。


「もっと、効率よく(剣に)力を乗せろ。それでは当たっても致命傷にはならないぞ」

「ぐへっ!!」


 力量差にモノを言わせた一方的なシゴキ。それは肉体的にも精神的にも一般人が耐えられるレベルを超越しているが、脳筋種族であるアマゾネスには馴染み深いもので…………口には出さないが、ヒスイも故郷を懐かしむとともに、強者に拾われた喜びを感じていた。


「ほら、足! 腰! 肘! 目に頼るな! 空気で攻撃を感知しろ!!」

「ぐはっ!? ……ま、まだまだ!!」

「本当に、頑丈さは一級品だな。しかし、ソレに頼り過ぎだ。他には何かないのか?」


 打撃や痛みに対する耐性は目を見張るものがある。しかしながら肉体に斬撃耐性は無く、切断や出血で簡単に死んでしまう事実は変わらない。


「ん~。それなら、これはどうだ?」

「どうだって言われてもな」


 服を脱ぎすて、胸を揺らしてみせるヒスイ。(アマゾネスにしては)小柄と言っても、人族の基準では充分なスタイルなのだが、残念な事に色気が致命的に欠けていた。


「前に里のバアちゃんから聞いたんだよ。いざとなったら裸で寝技に持ち込めっ…………てい!!」

「それは、どうなんだろうな?」

「イダダダダぁ!!」


 裸で飛びつくヒスイの顔面を、クロノは鷲掴みにして締め上げる。


「まぁ、気が済むまでやればいいが、根本的に向いていない事はお前も分かっているよな? 力任せの突撃も、お色気も」

「うぅ……」


 本来のアマゾネスは巨漢の男を彷彿とさせる体格で、突撃はその恵まれた体格を活かすのに適している。しかしながらヒスイはそうではない。


「いや、ガチもの(筋肉ダルマのアマゾネス)よりはあったな。色気」


 時間経過にともなって幾分か回復したクロノ。好みは人それぞれだが、ヒスイにはヒスイの魅力がある。友達感覚で気軽に付き合えるボーイッシュガールの魅力は、クロノとしても好ましいもので、逆に化粧や装飾品で着飾るケバケバしい女性は苦手としていた。


「なんだ、子作りするか?」

「そこまでではないな」

「そうか。子供が出来たら…………いや、何でもない」


 ヒスイの表情が陰る。アマゾネスは強者が相手なら来るもの拒まずであり、クロノはその基準を満たしている。


「里の事は知っている。お前が考えている事も、察しはついている」

「そっか」


 奴隷の権利はさて置き、ヒスイには帰る里が無い。ヒスイがアマゾネス然としたスタイルを目指す理由もそこにあった。


「まぁなんだ。バカでも何でも、愚直なヤツは嫌いじゃない。お前が俺の信頼に足るなら、俺はそれに見合うものを返してやるさ」

「??」


 多くを語らないクロノ。彼の価値基準は『信用できるか』であり、それで言えばヒスイは強者に仕える事を納得しており、厳しいシゴキにも付いてきている。それが出来る人材は非常に稀であり、彼はその部分を高く評価していた。




 こうしてヒスイは、少しずつではあるものの、警備要員のメイドとして徐々にハーレムに馴染んでいった。

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