#003 戦士の少女③

「あいったー」


 もう何度目か、今日もヒスイの叫びが村にこだまする。


「なんで書き取りで、書き写す文字よりも多く叩かなくちゃいけないんですか」


 この村には勉強を教える施設があり、老若男女問わず基礎教育が受けられる。その講師は持ち回りできまるのだが、今日の持ち回りはシアンであった。


「うぅ、仕方ないだろ? 剣なら振れるんだけど」

「剣が振れて、筆が振れないって…………はぁ~」


 ヒスイの勉強嫌いは種族的なものだが、その中でも彼女のソレは一際重傷であった。


「苦労しているみたいですね」

「ヒエ!?」

「あぁ、もうそんな時間? まさか、ココまで重傷だったとは」


 遅れて教室にやってきたのはニーナ。彼女は村の商業部門を仕切っており、教室では主に商人向けの上級クラスを担当している。


「そうでしょ? それでね、ついに! お願いしていた魔道具が完成したの!!」

「「…………」」


 怪しげな椅子を抱え興奮するニーナを見て、複雑な表情を浮かべるヒスイとシアン。


「これ、魔力を流すと雷の魔法が発動して、座っている人に激痛を与えられるの!」

「本当にやるんですか?」

「うぅ……」

「クロノさんも言っていたじゃないですか! ヒスイは"生命の危機"を感じると物覚えが良くなるって!!」


 どう見ても拷問器具なのだが…………それはさて置き、ヒスイに勉強を教えるのに有効な手段として『危機的状況に追い込む』方法が発見された。この状況ならヒスイでも、秀才と呼べるレベルまで記憶力が向上する。


 まぁ、誰でもそこまで追い込まれれば出来るかもしれないが、それはヒスイの頑丈さあってこそ出来る荒業なのだ。


「それじゃあ、座ってください!」

「本当に、やらなきゃ……」

「座ってください!」

「お、おう」

「それじゃあ、魔力操作はお願いします」

「やっぱり、そっちは私の担当なのね」


 魔力量が豊富な人材は貴重で、村でこの方法が使えるのはクロノとシアンに限られる。


「はい、書き写して! 手が止まったら、ビリビリするからね!!」

「お、おう。……」

「今です! ほら!!」

「えっと、それじゃあ……」

「ウギャァァァァァアアア!!」

「「!!!?」」


 殺意さえ感じる電流がヒスイの体を駆け抜ける。その光景は周囲の者たちを絶句させるのに充分であったが……。


「いいですね! でも、ちょっと弱かったかな?」

「えぇ……」


 ニーナだけは嬉々としていた。


「し、しぬぅ……」

「ほら、早く次の文字を書き写して。でないと、またビリビリが来ちゃいますよ?」

「ヒェ!!」

「…………」


 しずかにシアンを見つめるニーナ。


「え? やれってこと!?」

「…………(にっこり)」

「ウギャァァァァァアアア!!」




 こうして、ヒスイのみならず、教室での勉強効率は飛躍的に向上した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る