#002 戦士の少女②

「なんなんだこの服は!?」


 顔を赤らめて困惑するヒスイ。


「なんだと言われても、普通のメイド服だけど?」

「こんな卑猥な使用人服があるか!!?」


 着付けを手伝うのはマゼンダ。しかしそのメイド服は、ところどころ肌が見え隠れするものの露出面積自体は極めて少ない。


「えぇ~、ロングスカートだし、肌もほとんど見えていないよ? まぁ、胸元は簡単に外せて、ご奉仕に使えるんだけどね!」

「ご、ごホウシって…………と、とにかく! こんなヒラヒラした服なんて着られるか!!」

「え? そこ??」


 ヒスイは女系種族であり、肌の露出はそこまで気にかけない。しかしながら戦闘民族として、フリルなどの装飾に偏見を抱いており、そこに激しく戸惑っていた。


「そういえば、前に知り合ったアマゾネスも、妙なところに羞恥心を感じていたな」

「女性らしい服装がダメなんて、予想外です」


 話に加わったのはクロノ。彼は異性であるものの、ここは彼のハーレムであり、衣裳部屋にその視線を遮るものは置かれていない。


「オレは戦士だ! 裸を見られるくらいどうって事無いが、こういうのはダメだ!!」


 ヒスイは奴隷なので主人のクロノには逆らえないのだが、用途的にも育ち的にも仕方ない部分はあり、現状ではある程度自由な発言を許している。


「似合っていると思うんだが…………まぁ、エプロン部分とか、差し替えやすそうな部分で調節するか」

「防具を着込めば、そこでも膨らみは抑えられますけどね」


 ヒスイは警備兼任のメイド(候補)であり、装備は戦闘も想定されたデザインとなっている。エプロンなどは装飾の意味合いが強いものの、コルセットなどは防具も兼ねており、服の膨らみも装備を隠す意図がある。


「あと、コレ。かなり高いんじゃないのか? そんなものはアマゾネスには不要だ!」

「戦士なのに、装備は妥協しちゃうんですか?」

「なんか、傷は戦士の勲章って言うか、防具に金をかけるヤツを軽視する傾向があるな」

「あぁ~」


 服を脱ぎ捨て、下着の上に(装備を固定するための)ベルト類を纏おうとするヒスイ。そのせいで乳房が露わになるが、彼女にとっては裸を見られるよりも、フリル付きの服を纏うことのほうが『恥ずべきこと』なのだ。


「勝手に脱ぐな!」

「あいったー」

「里でどんな教育を受けたかは知らんが、今時のアマゾネスは防具にも気をつかうぞ。再生能力が高くとも、死んだら終わりだからな」

「それは……。まぁ、そうかもだけど」


 目を泳がせるヒスイ。


 それもそのはず、防具不要説は傭兵生活を引退して里で暮らすようになった年配者の教育によるものであり、定期的に里に戻ってくる次世代の戦士は、防具の着用や前衛以外のスタイルで戦う者が増える傾向にあった。


「ところで、防具を調整してくれたのってシズだよな? アイツはどうしたんだ? 来るように言っておいたはずだけど」


 シズはドワーフの職人であり、普段は娼館で使われる様々なアイテムの開発にあたっている。金属製の武器防具は担当外ではあるものの、今回の装備は"衣類"であり、村では担当部署が同じになっている。


「それが。その……」

「「…………」」


 重苦しい雰囲気を発するマゼンダに対し、2人が身構える。


「シズは! 過酷な自慰で倒れてしまって!!」

「「はぁ??」」

「彼女を責めないで上げてください! 本当に頑張っているんです! ただ、ちょっと集中しちゃうと周囲が見えなくなっちゃうだけで」

「そのジイってなんだ?」

「そんな、研究に熱中しすぎたみたいな言い方されてもな」

「もちろん、研究も兼ねてです。自ら実験台になって…………くっ!」

「だからジイって……」


 涙ながらに語るマゼンダ。


 シズは今回、雇用主であるクロノに呼び出されていたものの、新たに開発した自慰用の魔道具の実験を明け方まで続けた結果、失神して来られなくなってしまった。


「まぁいいか。アイツの研究には助けられているし。しかし、体調管理も仕事だ。目に余るようなら止めるか、助手をつけてやれ」

「はい」

「その……」

「あとヒスイは、戦闘訓練に入る前に、村で孤児と共に勉強会に参加してこい」

「なぁ!? 稽古をつけてくれるって!!」


 ヒスイは基礎体力や戦士としての覚悟は出来ているものの、一般教養が致命的に欠けていた。それは一朝一夕に身に付くものでは無いが、だからこそ手遅れになる前に叩き込んでおかなければならない。


「基礎は見てやるが、本格的な戦闘訓練は…………読み書きと算術が出来るようになってからだ」

「そんな! オレを殺す気か!!」

「「…………」」




 この世界には様々な人系種族が存在しており、その向き不向きは大きく異なる。

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