No17ーペンナイフー

ガラガラガラガラ

カートをひく音がうるさい。


ふふふーん♪ふふふーん♪

カートを押すルナの鼻歌が負けじと響く。


「なあショウコ落し物のルールって知ってるか?」

おっさんがルナの鼻歌に隠れたいような、聞いてほしいような、中途半端な声を出す。


答えは知っているくせに。


「知らない」

死神のことを教えてくれる人なんてあなた以外にいないでしょう?

「そうか、そうだよな、

服とかアクセサリー、イアホン、カバンそういう死ぬ時に身につけていたやつは、レプリカとして境界こっちに持って来れる、

それらは、遺失物センターには落し物とカウントされないから、二個目のレプリカが作られることはない。

ないはずなんだけどな、、、」


ガラガラガラガラ

カートをひく音がうるさい。


「俺は死ぬ時ペンナイフを握ってた。

なのに、遺失物センターに入るとペンナイフもあるんだ。

境界に持って来れる唯一のは自分自身。

遺失物センターにあるのはまだレプリカの作られていない無生物。

つまり『俺』の中にペンナイフが入っているとカウントされたってことだよ。

ペンナイフを持っていない『俺』は『俺』じゃないんだ。

汚れは絶対に落とせない。

俺の一部、いや、全てなのかもしれない」


なんの言葉も出ない自分が情けなかった。

私が落とせなかった汚れはなんだろう。

死んでから、その前からずっと考えてた。

私の罪はなんだろう、と。

私はなぜ犯したのだろう、と。

無駄に時間だけが過ぎていった。

60年間あってもたどり着けなかった。

私はあの日から全く変わっていない。

なのにもう終わる。

おかしくないか?

壊したくないか?

でも私は分かっている。

どんなに理不尽だと感じても、

世界にはまれない私がおかしいのだ、と。

私には守らなくてはならないものがあるのだ、と。


ガラガラガラガラ

カートをひく音が心地いい。

その調子でこの仕組みを壊してくれないか?


本物なんてなんの価値があるのだろう。


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