存在するものは滅びなければならない
きょうじゅ
本文
古ぼけた城門の前にぼくは立つ。
いくつもの山を越えた先、霊峰グリムの山上、雲すら下に見る頂の上にその忘れられた城はあった。かつて今から五千年の昔、この城はシャルトグリム城という名で呼ばれていて、今では名も忘れられた魔王が君臨していたという。その魔王は永遠の命を手に入れることを望み、地上の全てを制覇した後、神々の世界に攻め込んだ。
ぎぃ、と音を立てて城門がぼくの前に開いていく。
魔王は創造の神ディフォネを殺し、その永遠の命を奪った。だが、どこからともなく現れたルスティカという名の勇者によって封印され、歴史の闇の彼方へ消えた。ルスティカはその後12冊の聖典を世に残し、ルスティカ教の祖となった。ここまでは誰もが知っている通りだ。
目の前にあるのは朽ちかけた空の玉座だった。
だが、ルスティカの残した聖典には幻の13冊目が存在していた。存在しないはずだった幻の禁書、第13番聖典。ぼくがそれをとある海底神殿の宝物庫で発見したのは単なる偶然によるものだったわけだが、そこに書かれていたのは、ルスティカが魔王を封印した方法の秘密と、そして魔王を封印から解き放つための手段。
方法はごく単純なもので、第13番聖典を手にした状態で玉座に座り、短い呪文を唱えるだけでいい、それを僕は実行した。
「あ……あ……?」
「お前が魔王なのか」
「あ……? う、う……?」
目の前に現れた相手はそんなに威厳があるようには見えなかった。ぼろを纏った骸骨、幽鬼という感じの印象。最初のうち何を言っても「ああ」とか「うう」とかしか言えない感じで、会話が成立するようになるまでに小一時間かかった。
「そ、そう、だ……我は、魔王。魔王……」
「あのさ。ずっと眠ってた、って感じじゃないよね。五千年あったんだよね? ちょっと聞くのも怖いんだけど、もしかして……ずっと意識があった、とか」
魔王はぎょろりとした目でぼくを見て、言った。
「そう、だ。ずっと、ずっと、閉じ込められていた。意識の牢獄……とは、あれを言うのだろうな」
「うわぁ」
「わ、我は、長い長い時間の間に、大切なことを学んだ。天地万物に例外なく、存在するものは滅びなければならない。永遠なぞというものは、何も良いものではなかった」
「うーん」
僕はこいつを殺して永遠の命を奪って新しい魔王になるつもりだったのだが、なんか、展開としてどうせまた自分もどっかから召喚された新しい勇者とかに同じ目に遭わされそうな気がしてならない予感がしたので、やっぱりやめることにした。
封印の呪文を口にする。第13聖典に載っていたあれ。
「あああああああああ!! やめてくれ! やめ、やめて、やめてくれ! 我をまたあの永遠の闇の中に戻すのはやめてくれえええええええ!」
という悲痛な叫びが聞こえたが、ぼくは無視した。自分の得意な炎の魔法を使って第13番聖典を焼き払い、この城のことも今後金輪際、誰にも教えないことにしよう。
忘れられた城は、こうして今度こそ、永遠に忘れられた城となった。あいつは多分ぼくが死んだ後もずっとあのままだと思うが、まあそれは別にぼくの知ったことではないのであった。
存在するものは滅びなければならない きょうじゅ @Fake_Proffesor
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