10品目 ベビーサーペント酒 10年 (1)


 アルコール度数の高いお酒に、小型のモンスターを漬け込んでじっくり寝かせて作るモンスター酒。

 漬け込むモンスターは『キラービー』や『バイオスネーク』など、強い毒を持ったモンスターが好まれる。


 毒はアルコールに長時間漬けることで無毒化、逆に滋養強壮や若返りの効果があると言われ、古くから親しまれてきた。


 家の倉庫で、長年モンスター酒を漬け込んでいるというところも珍しくない。




 ――うちの店で漬けているお酒も、そろそろ飲み頃だ。



 🍺 🍗 🍺 🍳 🍺 🍝 🍺 🥩 🍺



「しーしょー! ゲンししょー!! いますかー? いますよねー?」


 今日もグィードくんがゲンさんを探してやってきた。

 ビンゴ。お捜しのゲンさんは、ちょうど3杯目のエールに口をつけたところだ。


 もうすっかりお馴染みとなった光景。


「あっ! 師匠!! やっと見つけましたよ」

「はぁ。たまにはひとりでユックリ飲ませてくんねぇかなぁ」


 ため息とともに漏れるゲンさんの訴えを無視して、グィードくんがいつものようにゲンさんの隣の席を陣取った。

 グィードくんの粘り勝ちというか、いつの間にか「師匠」と呼ばれてもゲンさんは文句を言わなくなっていた。


「オカミサン。オレにもエールください!」


 元気いっぱいのオーダーに「はいはい」と返事をし、木造りのジョッキにエールを注いでグィードくんへ持っていくと、ゲンさんと同じように一気に飲み干した。


「ぶはぁっ! やっぱりエールは最高ですね。ところでココって、エール以外にはどんなお酒を置いてるんですか?」

「色々あるわよ。ワインでもウィスキーでも。変わったところだと『ベビーサーペント酒』がオススメ。なんせ私の手作りだからね」


 私がフフンを笑うと、グィードくんがちょっと食いついてきた。


「ベビーサーペント酒? っていうか、お酒って自分で造ったり出来るんですか?」

「正確にはお酒を造ってるわけじゃなくて、お酒にモンスターを漬け込んでるだけなんだけど……これは今年で熟成はじめて10年、ちょうど飲み頃よ」


 カウンターの下に並べてある大型のガラス瓶のひとつを持ち上げて、カウンターの上に乗せてやる。

 ガラス瓶の中には黄金色に輝く液体と、とぐろを巻いてピクリとも動かないベビーサーペント。


「うわああぁぁっ!!」


 ガタッ、ガタタタン!


 大きな声と音が店に響いた。

 モンスターが入った酒瓶を目の前にして、グィードくんが後方へと仰け反った拍子に、椅子から転げ落ちてしまったのだ。


「え? え!? ええええ!? 大丈夫なんですか、コレ。サーペントって確か毒持ってますよね?」

「大丈夫どころか、滋養強壮に良いんだから……ほら」


 私はショットグラスに半分ほどベビーサーペント酒を注いで、そのまま自分の口へと運んだ。

 独特の苦みと、ピリッと舌を痺れさせる刺激、匂いはちょっと生臭い。

 味の調整用に足した砂糖とハチミツが無ければ、とても飲めたものではない。


 身体にイイものはマズい。薬と一緒だ。


「くううぅぅぅ。効くわぁ」


 私は空になったグラスをカウンターに置いた。

 さあ。グィードくんは飲めるかしら。

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