9品目 パイライトドラゴンのステーキ (5)


「なんと……。そんな方法があるなんて知りませんでした」


 パイライトドラゴンのステーキの調理法を説明すると、チフデールさんは素直に感心していた。


「はっはっは。路地裏料理もバカに出来んだろう?」

「うぅむ。今回ばかりは何も反論できませんね」

「安いパイライトドラゴンの肉でも、工夫を凝らせばドラゴンのステーキに負けない料理になる。これぞ庶民の技だッ!」


 それはそう。その通りなんだけど……。

 さっきからなんでマルコさんが威張っているのかしら。

 ついさっきまで『なんでこんなに肉が柔らかいのか、は俺もわかんねぇけど』って言っていたのに、まるで自分が作ったかのような態度だわ。


「うぅむ。安い食材でも工夫を凝らせば高級食材のようになる、ということですか。なるほど、なるほど。大変興味深い話ですね」


 一方のチフデールさんは5杯目のエールを一気に飲み干して、先ほどまでとは全く違う晴れやかな表情を見せていた。


「私は、いや冒険者ギルドは。これまで高級なドラゴンの肉ばかりに固執してしまっていたようです。パイライトドラゴンの肉でも、しっかり時間を掛けて丁寧に調理をすればドラゴンの肉にだって決して引けは取らない。冒険者も同じということですよね、オカミサン」


 私を見つめるチフデールの瞳が、キラキラと輝いていた。

 冒険者ギルドで見かけたときと同じ、溌剌としたギルド長が戻ってきたようだ。


 言っていることは、ちょっとドヤ感あって鼻につくけれど、「きっと、そうね」と話を合わせておいた。


 チフデールさんは満足そうに頷いていたから、客商売として正解だったと思う。


「マルコ。あなたにも御礼を言わせてください。私をこの店に連れてきてくれて本当にありがとうございます。おかげでとても大事なことに気づけましたよ」

「なんかよくわからねぇけど、楽しんでもらえたなら良かったぜ」


 マルコさんは5杯目のエールを飲み終わり、上機嫌の赤ら顔。

 この会話の記憶が明日の朝まで残っているか、怪しいラインだ。


「そうと決まれば、ゆっくりなんてしていられません」


 残っていたパイライトドラゴンのステーキを、最後のひと切れまですっかり食べ終わったチフデールさんは「仕事に戻ります!」と言い残して店をあとにした。


 あんなに飲んだのに、仕事になるのかしら。



 しばらくして。

 ギルド長であるチフデールさんの指揮の元で、主に低ランクの冒険者を対象にした『冒険者修練場』が設立されたというニュースが王都を賑わせた。


 これによって冒険者全体のレベルが底上げされ、死亡者数も大幅に減ったそうだ。

 それは、王都の冒険者ギルドの戦力が大きく跳ね上がったこと意味する。


 チフデールさんは、しっかり時間を掛けて丁寧に訓練することで、見事に冒険者をランクアップしてみせたのだ。




 9品目 パイライトドラゴンのステーキ(了)



――――――――――――――――

 9品目はドラゴン……ではなく、ドラゴンによく似たリザードのステーキでした。


 今回のお話は1品目、そして4品目からストーリーが繋がった『一話完結じゃない一話完結』となっています。もちろん、この話だけでも楽しめるように書いてありますが、リュートくんやナオヤ青年の話が気になった方は、是非1品目、4品目もお試しくださいませ。 


 本作がお気に召したら是非フォローをしていってください。


 この料理『パイライトドラゴンのステーキ』のお代は♡、評価は★、口コミはレビューでお願いしますね。

 

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