9品目 パイライトドラゴンのステーキ (3)


「そりゃ、そうだ。お前は悪くない!」


 マルコさんは3杯目のエールを飲み干すと、チフデールさんの肩を叩いた。

 だけど、チフデールさんはマルコさんの手を払い除けて、そうじゃないと首を横に振る。


「悪くないとは言っていません。私は自分の責は認めた上で、辞任が妥当なのかと問いたいのです!」

「お、おう。そうだな。悪かったかもしれんが、辞任するようなことじゃないっ!」


 慰めたはずのマルコさんが、なぜかたしなめられている。

 チフデールさんって、薄々気づいてはいたけどちょっと面倒なタイプね。


 ふたりのやりとりを黙って見ていたら、マルコさんが視線でヘルプを送ってきた。

 なにか助け舟を出せ、ってことなんでしょうけど、話に入りたくはない。


 ここは食堂だ。

 出せるものは料理とお酒。


 私はマルコさんの目を見て頷き、くるりと背を向けて厨房へと戻る。

 仕込んでおいた料理の残りを確認するためだ。


 チフデールさんの気持ちを惹きつけられそうなものといったら……。


「ねえ、ふたりとも。盛り上がってるところ悪いんだけど……、良かったらステーキ食べない?」

「おお! ステーキ、いいな! おい、折角だから頂こうぜ」


 私の意図を汲んだマルコさんが、ノリノリでチフデールさんを誘う。

 だけどチフデールさんは、マルコさんと同じテンションで「本当ですか!?」とは言わなかった。


「ステーキですか……。私は肉にはうるさいですよ。ちなみに、なんの肉です?」


 やっぱ面倒くさいな、この髭オヤジ。

 ちょっとイラっとした私は、少しだけ意地悪したくなった。


「なんのお肉か、食べて当ててみない?」

「なんですって?」


 チフデールさんがジロリと私の目を見る……というか、ニラまれた。


 グチグチ弱音を吐いてはいるけど、流石は冒険者ギルドのギルド長というか……。

 眼光が鋭すぎて引くわ。


 だけど、こっちだって伊達に客商売を何年もやっているわけじゃない。

 それくらいでビビるようなチャチなメンタルはしてないわよ。


「もちろん、タダでとは言わないわ。もしピタリと当てられたら、ステーキはサービスってことでどうかしら?」


 私がニヤリと笑うと、チフデールさんはフンと鼻を鳴らした。


「そんな安い挑発には乗りま――」

「おいおい、マジかよ! 当てたらタダで、外しても普通にお金を払うだけってんなら、俺たちが損することは無いってことじゃねぇか。オカミサン、今さら条件変えようったって無しだぜ。ほらっ、チフデール! バシッと当てちまえよっ」


 明らかに断ろうとしていたチフデールさんの機先を制して、マルコさんが強引に話を進めていく。


 マルコさん、ナイス。と心の中でガッツポーズを決めながら、戸惑うチフデールさんをよそにステーキの準備に取り掛かる。


 数分後。

 チフデールさんとマルコさんの前にそれぞれ、分厚いステーキ肉が並んだ。


 先にナイフをつけたのはマルコさん。

 手に持ったナイフはスッと抵抗なく肉を切り、フルフルと弾力のあるステーキが口へと運ばれていく。


「うっまああぁぁい! なんだ、この肉は!?」


 だから、それを当てろって話をしてるのよ。

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