9品目 パイライトドラゴンのステーキ (2)
パイライトドラゴンというモンスターがいる。
このモンスターは『ドラゴン』という名を冠しているにも関わらず、ドラゴンではない。
体格はドラゴンと遜色ないほど大きく、背に翼らしきものも生えている。パッと見ただけではドラゴン種と見間違えても仕方がない外見をしていた。
ある時、冒険者が持ち帰ったパイライトドラゴンの死骸を調べたところ、ドラゴン種とは身体の構造が全く違い、むしろリザード種に近いことがわかった。
当然、皮も骨も素材としての価値はそれなり、固く筋張った肉は食用としては低ランク。つまりちょっと大きなリザード種としての価値しかない『儲からないモンスター』なのだ。
いつしか、パイライトドラゴンは『
それでも時折、パイライトドラゴンをドラゴン種と勘違いした冒険者が、意気揚々と冒険者ギルドに素材を持ち込んでくる。
これは経験の浅い冒険者の多くが通る道でもある。
ギルドのカウンターで顔を真っ赤にしている冒険者がいたら、気づかないふりをしてあげるのも優しさだ。
🍺 🍗 🍺 🍳 🍺 🍝 🍺 🥩 🍺
つまるところ、冒険者ギルド長のチフデールさんは有望な冒険者をふたりも逃してしまったことを上からも下からもチクチクと責められているらしい。
ひとりは先ほど名前が挙がったナオヤ青年。
あれから隣国に渡ったナオヤ青年はめきめきと頭角を現し、隣国の冒険者ギルドで大活躍しているそうだ。
公爵家の嫡子からの依頼だったとはいえ、彼に懸賞金を賭ける手続きをしたのは他でもないこの国の冒険者ギルド。更に言うなら、その許可を出したのはギルド長であるチフデールさんということになる。
もうひとりは北方の辺境領フォアイラで魔導学校の教師になったリュートくん。
強化魔法の使い手だった彼は、王都の冒険者ギルドで実力を発揮することが出来ずに田舎へと引っ込んだ。
なにがキッカケか「フォアイラの魔導学校に強化魔法の天才がいるらしい」といったウワサが王都まで届いたのが最近のこと。
ナオヤ青年を逃した穴埋めに、彼を冒険者としてスカウトしようと赴いたチフデールさんが、にべもなく断られたのは言うまでもない。
「みんなして、私のせいだって責めるんです。そりゃ責任が無いとは言いませんよ、ギルド長ですから全ての責任は私にありますとも。だからって、ギルド長を辞任しなきゃならないような話ですか!?」
どちらも結果から遡って責められているものであって、チフデールさんだけを責めるのは酷というものだけど。
冒険者ギルドのギルド長ともなるとその椅子を狙っている敵も多いのだろう。
これを足掛かりにチフデールさんをギルド長の椅子から引きずり降ろそうと企む輩がいてもおかしくはない。
「王都の冒険者ギルドに登録している冒険者の数、数千人っているんですよ。その中でも半分くらいは低ランクの冒険者なんです。そこから光る才能を取りこぼさずに全て拾い上げるなんて……神様の眼でもないと不可能ですよっ!」
チフデールさんの悲鳴のような訴えはとどまる様子がない。
ちょっと早いけど、今日はこのあたりで表の灯りを消して、閉店ってことにしておいた方がいいかもしれないわね。
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