9品目 パイライトドラゴンのステーキ (1)


 高級食材にも色々あるけれど、やはり一番人気は『ドラゴンの肉』だろう。


 もちろん、ドラゴンにだって様々な種がいる。

 希少な宝玉を落とすことで有名な『火翼竜』もドラゴンで、ステーキやハンバーグにすると柔らかな肉感と上質な脂がたまらない……らしい。


 残念だけど、私は食べたことが無いからわからない。


 ドラゴンのステーキを食べたことがある人なんて、貴族や富豪を除けば、ドラゴンを狩れるだけの実力がある冒険者くらいのものだろう。


 それでもなんとかして庶民でも『ドラゴンのステーキ』を食べられないか、と試行錯誤するのだから、食への探求心というものはスゴい。



 ――だから、路地裏の食堂でも出せる『ドラゴンのステーキ』があったりする。



 🍺 🍗 🍺 🍳 🍺 🍝 🍺 🥩 🍺



 夜も更けてきてお客様もほとんどいなくなった頃。


「よっ! オカミサン。とりあえず、エールを2杯な」


 食堂『ヴィオレッタ』の常連、兵士長のマルコさんがご来店だ。

 2杯、ということは今日はおひとり様ではないらしい。


 店の入り口である木製の扉へと目を向けると、マルコさんと同じか、やや年かさに見える髭面の大男がのそりと入ってきた。


 お店に来るのは初めてだけど、私はその人を知っている。


「あら。もしかして冒険者ギルドのギルド長さん?」

「……はい。……チフデールと申します。……私なんかがギルド長で、本当に申し訳ございません」


 小声で名乗ったかと思ったら、突然の謝罪。

 私は面喰ってしまった。


 見た目に反して、おそろしく謙虚な――いや、ここまでいくと……もはや卑屈の域だ。前に冒険者ギルドで見かけたときは、もっと威勢があって溌剌とした人だったように見えたのだけど。


 仕事とプライベートは別人格ってタイプの人なのかしら。


「わりぃな、オカミサン。コイツ、ここんところスッカリ落ち込んじまっててよ。エールでも飲ませて溜まってるもんを吐き出させてやりてぇんだ」

「ああ……、そういうこと。はい、エールふたつ。おまたせ」


 マルコさんとチフデールさんが、木造りのジョッキをコンと合わせて一気にエールをあおった。

 ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ、と小気味よい音を鳴らしながら、ふたりのエールがあっという間に吸い込まれていく。


「「ぷはぁ! おかわり!!」」


 トン、と同時にカウンターへと置かれたジョッキは綺麗サッパリ空っぽだった。まだオツマミも出していないのに、と思いつつも私はお替わりエールを注ぎに行く。


「あー! くそっ!! 私はなんて見る目が無いんでしょう!!」


 ドンッとこぶしをカウンターに叩きつけながら、チフデールさんがさっきまでとは別人のような大声で吠えた。


 だけど内容はやっぱり自虐的だ。


 マルコさんはチフデールの肩をポンポンと叩きながら、


「そんなことねぇって。俺だってナオヤがあんな有名になるなんて想像もしなかったしよぉ」


 あら。なんだか知った名前が出てきたわ。

 ナオヤ青年。以前、このお店で醤油イーストソースを使った料理、『エビルオークのワイン生姜焼き』を作ってくれた黒髪の冒険者だ。


 一時期はこのお店に通ってくれていたのだけど、公爵家の嫡子とトラブルを起こして、貴族不敬罪で賞金首となった彼はこの国を飛び出していった。


 自分から訊きに行くような野暮はしないけど、話が気になった私はエールを運びながらふたりの話に耳を傾けた。

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