7品目 スライムところてん (4)


 ところてんは味の主張が弱い。

 逆にいえば様々なアレンジで食べられる面白い食材だ。



 スラッシュビークの卵と合えたピリ辛ところてん。


「やっぱ卵はスラッシュビークだな。ピリ辛でエールにもよく合う!」

「なるほど。ピリ辛のところてんも有りですね。これは盲点でした」



 レモンと薬味を利かせた夏味満点ところてん。


「ビネガーソースよりもサッパリしてて、これはこれでいいな」

「私はビネガーの酸味が苦手なので、レモンこっちの方が好きかもです」



 柚子を散らして薄めた果実酒をかけた大人のところてん。


「うほおおぉぉぉ! これは酒好きにはたまらんぞ!!」

「大人のデザートですね。女性でも好きな人が結構いそう」



 ところてん入りのチキンスープ。


「おおっ。こりゃ締めにいいんじゃねぇか?」

「スープパスタとも違う新食感。冬なら軽食として十分いけますね」



 ふたりがあんまり喜んで食べるものだから、私も調子に乗って次から次へと作ってしまった。


 その日は準備していたところてんが無くなるまで、それこそ『ところてん式』にところてんアレンジグルメを提供し続けることになった。




 それから数カ月後。


「オカミサン、やられたな」

「ふふふ。いいのよ、別に。美味しい料理は独り占めしちゃダメなんだから」


 ゲンさんは今日もエールを飲んでいる。

 私はいつものようにツマミを作りながら、背中でゲンさんと会話する。


「そんなもんか」

「そんなもんよ。そもそも『スライムところてん』だって、作り方を見つけたのは私じゃないんだし」

「それもそうだな」


 ゲンさんも納得したようだ。

 暑い盛りは過ぎたから、食堂『ヴィオレッタ』ではもうスライムところてんは出してない。


 代わりに、王都の中心に近い市場の近くにスライムところてんの専門店が出来た。

 立地の良さも相まって、連日行列が出来ているらしい。

 店内での飲食よりも持ち帰りのお客が多いそうで、売上は相当なものだろう。


 ビネガーソース、スイートシロップのところてんはもちろん、月替わりの限定メニューとして並ぶ『創作ところてん』も人気のひとつ。


 最近は少し寒くなってきたこともあって、ところてん入りのピリ辛卵スープが一番人気だとか。卵はもちろんスラッシュビーク。


 お店に立っているのは、あの日、ゲンさんといっしょにところてん尽くしを食べた赤髪の女性だ。


 誤解のないように付け加えておくと、あのあとしばらくしてお店に来てくれた彼女から話は聞いていた。

 元々、スライム狩り専門の冒険者を雇って、食材調達から加工、料理の提供まで、ワンストップの『スライムところてん新規事業』を計画していたらしい。


 商家の娘さんは、こんな路地裏の食堂とは考えることの規模が違うわ。


 うちの店に来てくれたのも「王都にある飲食店を巡ってスライムところてんの研究をしていた」のだそうだ。まあ、ライバル店を調査するスパイみたいなものね。



 ちなみに、私もたまに創作ところてんを買いに行かせてもらっている。

 私には思いつかないようなアレンジところてんも並んでいて、どれもちゃんと美味しいのよ。




 7品目 スライムところてん(了)




――――――――――――――――

 7品目にして、ついにスライム料理が登場です。


 怪しい女性客の正体は、帝国のスパイではなく同業のスパイでした。


 ところてんって色んな食べ方があって面白いですよね。

 定番は酢醬油と言われていますが、関西では黒蜜派が多いとか、四国では冷たい出汁をかけるとか。


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