7品目 スライムところてん (3)


 王都の地下水道で大量発生したスライムは、数多の冒険者の手によって狩られた。

 その後、国からの依頼で『地下水道のスライム退治』という仕事が冒険者ギルドに常設されることになり、新米冒険者たちの定番クエストとなった。


 これによって王都の水事情は無事に解決をみたが、同時にひとつの問題が生まれた。――退治したスライムの後処理だ。


 当初、火炎魔法で焼却する方法が採用された。

 しかし、死んでいるとはいえ膨大な量のスライムを焼却するには何人もの魔導士が必要だった。つまり人件費がかかる。


 その難題を見事に解決したのが『スライムところてん』である。



 🍺 🍗 🍺 🍳 🍺 🍝 🍺 🥩 🍺



「おっ! オカミサン、もうやってんのかい?」


 駆け出し冒険者パーティーの面々と入れ違いで、大きな声をあげながらお店に入ってきたのはベテラン冒険者のゲンさんだ。


 とりあえずエール、とオーダーしながら店内を見渡したゲンさんが不意に目を細めた。


「あれ? 奥にいるのはもしかして兵士長さんじゃねぇか?」


 あっ! 見つかっちゃった。

 マルコさんはバツの悪そうな表情で、静かに手を挙げる。


「おいおい、マルコ。こんなとこでコーヒー飲んでる場合か? 外じゃ大捕り物やってるってのに。ほら、なんだ、あの……脱獄した女。隣の通りのカフェでプリン食ってたらしいぞ」

「なに!! それは本当か!?」

「ウソついてどうすんだよ。なんの得にもならねぇよ」


 ゲンさんの言葉に、マルコさんが跳ねるように席を立った。


「オカミサン、お金は置いていくからっ! 余った分は……、次の飲み代から引いておいてくれ!」


 銀貨を1枚カウンターに置いて、マルコさんは勢いよく店を飛び出していく。

 いつものように乱暴に扉を開けながら「クソッ! 『ところてん』じゃなくて『プリン』だったか」と苦々しげな顔で呟いていた。


 そりゃあ、そうよね。

 牢から外界に出て甘いものが食べたかったとしても、わざわざ『ところてん』なんか食べないわ。ケーキとかプリンとか、もっとわかりやすいスイーツを選ぶに決まってる。


 せめて王都から脱出するまで我慢できたら……、とは思うけど食欲には抗えないのも人間らしい。


「ハッハッハッハッハ! 相変わらず慌ただしいヤツだな」

「さっきまでは、居るのか居ないのかわからないくらい静かだったのよ」

「俺も、まさかアイツが黙ってコーヒー飲んでるとは思わねぇから驚いたぜ」


 その気持ちはよくわかる。

 マルコさんといえば、大きな声とエールだ。


 あ、そうだ。ゲンさんにエールを出さないと。

 オーダーを思い出して、慌てて木造りのジョッキにエールを注ぐ。


「はい。エールお待たせ」

「おっ。ありがてぇ」


 カウンターにドスンと座ったゲンさんが、エールに飛びつく。

 ゴキュ、ゴキュ、とのどを鳴らしながらエールを流し込むゲンさんの表情は、なんともいえない幸せそうな顔をしていた。


「ゲンさんは『ところてん』いらない? おつまみアレンジしてあげるわよ」

「お! それはいいな。エールに合う感じで頼む」


 ゲンさんが乗ってきた。


「あ、あの! 私にもください!」


 スイートシロップのところてんを食べ終えた、例の怪しい女性客も乗ってきた。

 いつの間にかフードは背中に下りている。


 鮮やかな赤髪が眩しい妙齢の女性だった。

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