7品目 スライムところてん (2)


 干したスライムを揉み洗いしたら、大きな鍋に入れて半日ほど漬けておく。

 そのまま強火で煮込み、グツグツとスライムを煮出す。


 ザルを使ってし、更に紙を使って濾すと、スライムところてん液が出来あがる。

 これをパックに入れて粗熱を取ったら、冷蔵の魔法をかけて冷やす。


 これが『スライムところてん』の作り方。

 作り方を知っていればとても簡単なのだけど、初めて作った人は本当にスゴいと思う。



 🍺 🍗 🍺 🍳 🍺 🍝 🍺 🥩 🍺



「ん~~! 美味しい~~!!」

「やっぱ暑い日はところてんだな」

「仕事終わりだから、余計に美味しいわ」

「…………(にこり)」


 駆け出し冒険者パーティー4人組が和気あいあい。


 マルコさんはあっという間にところてんを平らげて、すでにコーヒータイムに入っている。


 怪しい女性客は……、なにやら一本ずつ大切そうにところてんを食べている。

 外套のすき間から見えた口元は、すこしニヤけて見えた。


「ねぇ、あの話、聞いた?」

「なんだよ、あの話って」

「ほら。今朝、お城の牢から逃げ出したって」

「あぁ、それな。帝国のスパイってウワサの女だろ?」

「…………(こくり)」

「まだ城下にいるのかなあ?」

「城門を抜けるのは厳しいでしょうし。たぶん、いるんじゃないですかね」

「えーーー!? こわーい!!」


 今日は朝からお店で仕込みをやってたから、全然知らなかったわ。


 そして、いま私の目の前に怪しい女性がひとり。

 黙々と、ところてんを食べているのだけど……まさか、ね。


 牢から解放された人はまず甘いものが食べたくなる、なんて話も聞く。

 彼女が食べているのはスイートシロップのところてんだけど……まさか、ね。


「おいおい。怖がってどうすんだよ。もし俺たちで捕まえたら――」

「そっか! 報酬がっぽり貰えちゃう!?」

「報酬もいいですけど、冒険者ランクを上げてもらいたいですね」

「それな! もうスライムを狩るのも飽きてきたもんなぁ」


 どうやら彼らは初級冒険者用のクエストとして、スライム退治をしているようだ。

 つまり、外でスライムを退治してきて、その報酬でスライムところてんを食べに来ていることになる。ある意味、自給自足のサイクル。


「ちょっと、ちょっと。スライム退治も立派な仕事よ。あれが増殖し続けたら大変なことになるんだから」

「…………(コクコク)」


 スライムは水辺に多く生息しているのだけど、水のあるところならどこでも増殖する。もう何十年も前、王都の地下水道にスライムが大量発生したときは、それはもう大変だったと聞く。


 井戸から水を汲めばスライムが飛び出す。

 そんな状況を想像してもらえば、恐ろしさの一端くらいは伝わるだろうか。


「それに、私たちがスライムを狩ってくるから、こうして美味しい『ところてん』が食べられるんじゃない」

「…………(ギョッ)」

「え……、まさか『ところてん』って」

「うえぇ。マジか」


 どうやらほかの3人はところてんの原料を知らなかったようだ。

 普段何気なく食べているものの原材料を知らない、なんて良くある話。


 3人はすっかり食べ終わった皿を見つめると、ちょっとだけ哀しげな顔をして「ごちそうさま」と声を揃えた。

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