7品目 スライムところてん (1)


 あるところに一組の男女がいた。

 その日はとても気温が高く、少し外を歩いただけで服が汗でびっしょりになってしまうくらいの猛暑日。


 男が言った。

「今日は暑いから、サッパリしたものをツルっといきたいんだよね」


 女は答えた。

「私は歩き疲れちゃった。甘くて冷たいデザートが食べたいわ」


 全く違うもののように聞こえるけれど、なんとふたりが食べたいものは全く同じ。

 迷うことなくお店を選び、同じメニューを注文する。


「「ところてん、くださいな」」

「お味は?」

「ぼくはビネガーソース」

「私はスイートシロップで」

「かしこまりました」


 軽食にもデザートにもなる暑い日の定番。


 ――それが『スライムところてん』だ。



 🍺 🍗 🍺 🍳 🍺 🍝 🍺 🥩 🍺



 まだまだ暑い昼下がり。

 食堂『ヴィオレッタ』はこの時期だけちょっと早めの開店。


『ところてん はじめました』


 店先に張り紙を貼っておくと、吸い寄せよられるうにお客様がやってくるから。


 キィ、と静かな音を立てて入ってきたのは常連のマルコさん。

 いつもならもっとガサツに扉を開けるのに。


「よっ」という軽い会釈。

 店の中を見渡しながら、奥の方の席に座った。


「いらっしゃい。いつもより早いのね。お仕事は早上がり?」

「いや。休憩だ、休憩」


 めずらしいこともあるものだ。

 昔はよく見廻りついでに来てくれていた。

 だけど、お城の兵士長さんになってからは仕事終わりにしか来なくなった。


 よく考えたら、それが正しい。サボタージュ良くない。


「ご注文は?」

「そうだな、ところてんを頼む。あとコーヒーをくれ」


 昔なら「1杯だけ」とエールを頼んでいるところだ。

 もしかすると、お店に来たのにはなにか理由があるのかもしれない。


「あら、真面目じゃない。お味は?」

「あー、じゃあビネガーソース」

「はいはい」


 冷蔵した長方形型のパックから塊のところてんを取り出す。

 これを専用の木型に入れて後ろからグッと押し込むと、反対側にある格子状の刃を通って細長い棒状のところてんが出来上がるのだ。


 薄い水色をしたところてんがボールの中でプルンプルンと踊っている。

 これにビネガーベースの特製ソースをかけて、上からゴマを振りかければ。


「はい。ところてんよ」

「おう。ありがとな」


 マルコさんがフォークで器用にところてんをすくう。

 ところてんはチュルンと口の中へ吸い込まれていく。


 バタンッ!


「オカミサン! ところてん頂戴!」


 大きな足音を立てながら、新しいお客様のご来店。

 最近、顔を見せてくれるようになった駆け出し冒険者のパーティーご一行様だ。


「はいはい。お味は?」

「僕はビネガーソースにします」

「俺も同じので!」

「私と彼はシロップね」

「…………(こくり)」


 ビネガーソースがふたつと、スイートシロップがふたつ。


「はいはい。ちょっと待ってね」


 再びドアが開いて、お客さんが入ってきた。

 外套にすっぽり身を包みこんでいて、年齢も性別もわからない。


「あのー、すみません。ところてん、ありますか?」

「あるわよ。お味は?」

「スイートシロップでお願いします」


 声の雰囲気は、おそらく女性。

 店の出口近くの席へと腰を下ろした。

 外套を脱ぐどころか、フードを下ろす気も無いらしい。


 冒険者パーティーのところに4つ。

 女性客のところに1つ。

 ところてんをカウンターに置いていく。


 私が女性客に近づくと、彼女はフードで顔を隠すような姿勢を取った。


 …………怪しすぎる。


 

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