6品目 スラッシュビークの卵かけライス (3)
再訪してくれた旅人さんのお名前は、ロレーヌさん。
人捜しの旅をしているそうで、この近くの安宿を根城にして、王都には1週間ほど滞在するそうだ。
「捜しているのは、兄なんです」
なるほど。お兄さんね。
私の頭の中では、勝手にお兄さん候補が手を挙げている。
だって卵かけご飯の食べ方がそっくりなんだもん。
トッピングこそ違ったものの、かき混ぜ方も、ひと口、ひと口、大切そうに食べるところもそっくり。
食べ方というのはクセのようなもので、身体に染みつくもの。
つまり、ふたりとも子どもの頃から同じような食べ方をしているのだ。きっと。
「年齢は……30代後半、くらい。すみません、曖昧で。子どもの頃に離ればなれになって以来、一度も会っていないもので」
彼はたぶん……40歳くらいだ。
見た目でそれくらいなら、『30代後半くらい』と大きな差は無い。
脳内でエールをがぶ飲みしているお兄さん候補が、どんどん存在感を増していく。
「いくつかの街を訪ねたのですが、流れ者が行きつく先はほとんどの場合、王都だと誰も彼もから言われて……ここまでやってきました」
彼女はとても運がいい。そんな当てもない旅をしていたら、ここまでたどり着くまでに人買いに騙されてしまうケースも珍しくないというのに。
そして『流れ者が行きつく先はほとんどの場合、王都』というのは正しい。
王都には職があふれている。多くの人を受け入れられるだけの規模がある。
実際、問題さえ起こさなければ他国出身でも問題無く王都で仕事をすることが可能だ。もちろん居住範囲は外壁側に限られるが。
「お兄さんのこと、私もお店の人に訊いてみようか?」
「本当ですか!?」
ロレーヌさんの表情がパァっと明るくなった。
「ええ、もちろん。お兄さんの名前は?」
「ゲンギオ! ゲンギオ・マーニーです!」
ゲンギオ!
ゲンさん!!
いや、ゲンさんの本名は知らないんだけど。
ゲンギオでゲンさんって普通にありそうじゃない。
すでに、私の頭の中ではロレーヌさんの捜している人はゲンさんということになっていた。
でも、これだけじゃ情報が足りない。
「ほかになにか……お兄さんしか知らないこととか、兄妹の証拠……みたいなものはある?」
ロレーヌさんは胸元に手をやると、服の中から小型のペンダントを取り出した。
真鍮製だろう銀色のペンダントの中央に、小さな赤い宝石がキラリと光っていた。
「証拠、になるかはわかりませんけど……。私たちの故郷では子どもが生まれたときに、火翼竜の紅玉をあしらったペンダントを贈る習わしがあります」
ペンダントの裏には名前が彫られている。
つまりゲンさんが彼女の兄であれば、同じペンダントを持っているということだ。
「兄が今も持っていてくれていれば、ですけど」
「ありがとう。十分よ」
あとは1週間以内にゲンさんが来てくれることを祈るばかりだ。
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