5品目 人喰いエビのフライ (3)
「つまり……。クロザさんが有名パーティーに引き抜かれちゃった、と」
「そっそっそ。こりゃ、クロザの裏切りだろ?」
ライガーさんが口を尖らせて頷くと、それを受けてバナイさんが首を横に振った。
「やれやれ。情報が正確ではありませんね。ボクたちはクロザが勧誘されているらしき場面を見ただけです」
「同じことだ! 誘ってきたのは『千翼の獅子』だぞ! 王都の冒険者ギルドでも5本の指に入る有名パーティーだぞ!? 行かないなんて選択肢はないだろうが!!」
パンッ! パンッ!
「はいはい。ヒートアップしないの」
私が手を打って注意すると、「すまん」とライガーさんが縮こまった。
ライガーさんは、すぐに頭に血が上るからよくない。エビフライトリオの瞬間湯沸かし器だ。もちろんバナイさんの言い方も良くないんだけど。
…………はぁ。
それにしても、なんで私はふたりの仲裁なんかさせられてるんだろう。
いや、なんでもなにも。
ちょっと目を離したら、このふたりがケンカを始めるからなんだけど。
エビフライトリオの要がクロザさんだということを、私はいまこの身をもって思い知らされている。
「まあ、そうですね。こんな歳だけ重ねた平々凡々なパーティーよりも、『千翼の獅子』に行った方がいいに決まってます」
「ふんっ! 当たり前だ。100人いれば99人は『千翼の獅子』を選ぶに決まってらぁ。だがよ、クロザが俺たちを裏切って向こうに行くってことも間違ってねぇだろうが」
ライガーさんがチッと舌打ちしながら、エビフライに噛みついた。
その様子を見ながら、バナイさんもエビフライにたっぷりタルタルソースをつけて、やはりガブリと嚙みついた。
ふたりでモグモグと黙ってエビフライを咀嚼している。プリップリで食べごたえがあるから、そう簡単には飲み込めない。
二人の間に沈黙が流れて、私はつかの間の平穏を味わっている。
しばらくして、ついにエビフライを飲み込んだバナイさんがぼそりとつぶやいた。
「ボクだって……さみしいですよ」
「………………」
ライガーさんも、もうエビフライを飲み込んで良い頃合いなのに、いまだにモグモグと口を動かしている。
やれやれ。と言いたいのはこちらの方だ。
このふたり、もう30にもなろうというのにまだまだ子供のようだ。
幼馴染のクロザさんが有名パーティーに入れることを祝福したい気持ちと、3人が離れ離れになってしまうさみしい気持ちがぶつかり合って、情緒不安定になっているだけじゃないか。
だからライガーさんはクロザさんを「裏切り者」と呼んで八つ当たりするし、バナイさんはそんなライガーさんをたしなめることで鬱憤を晴らしている。
本当にどうしようもないくらいバカで、愛おしい男たちだ。
そのとき、扉がバタンッと音を立てて開いた。
入り口の横幅ギリギリを、ズイズイッと入ってくる人影。
こんな巨体のお客様に心当たりは、ひとつしかない。
バキッ!!
イヤな音が店内に響いた。
「あっ! やっちゃったぁ」
アイツめ。ついに入り口の木枠を壊したな。
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