5品目 人喰いエビのフライ (2)


 バタンッ!

 お店の扉が開くと、魔術師装束に身を包んだ恰幅の良い男が入ってきた。


 その巨体は入り口の横幅ギリギリの大きさ。

 木の枠を壊しやしないか、といつもドキドキだ。


「フンフフンフフーン♬ オッカミサーン! 僕にも『いつもの』ねぇ!!」


 鼻唄を歌いながらカウンターに座ったのは、常連のひとりで名前はクロザ。

 見た目のとおりの魔術師。パーティーの後衛でいつもどっしりと構えている。


「はいはい。喜んで! 人喰いエビのフライ定食をライス特盛に、タルタルソースも大盛り別皿で。エールはメガジョッキ。……で合ってる?」

「かんぺきですぅ」


 私はどんどん人喰いエビをバッター液にくぐらせていった。

 パン粉の衣をつけたエビが油に浸かって心地よい音を立てる。


「ん~~。美味しそうだなぁ。楽しみだなぁ」


 ニコニコ笑顔のクロザさんにつられて、私もいつの間にか笑顔になっていた。


 ライガーさん、バナイさん、クロザさんの3人は幼馴染。

 なんだかんだの腐れ縁で、かれこれ10年くらい一緒にパーティーを組んでいるそうだ。


「おまえはいつもそれだ。エールとライスを一緒に食うなんて理解できん」

「やれやれ。ボクもそれには同感ですね」


 さっきまで視線をぶつけ合っていたふたりが、いつの間にか手を組んでいる。

 だけどクロザさんはニコニコ笑顔で笑っていた。


「いいじゃん、べつにぃ。食事なんて自分が好きなように食べればいいんだよぉ。僕にとってはこれがベストマッチなんだからぁ」


 クロザさんのふんわり、ほんわかとした空気がお店を包み込む。

 先ほどまでの剣呑な雰囲気はどこへやら。


 ここまでが彼ら3人、通称エビフライトリオの『いつもの』だ。



 🍺 🍗 🍺 🍳 🍺 🍝 🍺 🥩 🍺



 ところが、そんなある日のこと。


「だからよぉ。エビフライにはライスだって言ってんだろうがよ」

「いいや。エビフライにはエール。これは譲れませんね」


 ライガーさんとバナイさんによる『いつもの』が始まった。

 私も、店にいる他の常連客も、みんなが扉の方を見つめている。

 なのに、いつまで経ってもクロザさんが入ってこない。


 ライガーさんとバナイさんの丁々発止は収まる様子がなく、店の空気がどんどん悪くなっていく。


「おいおい。今日はクロザはどうしたんだぁ?」


 痺れを切らしたほかの常連客からヤジが飛ぶ。

 それはみんなが心の中で思っていたことだ。私もふくめて。


「クロザだぁ? 知らねぇな、そんなヤツ」

「やれやれ。そうやってすぐ拗ねるから、きみはダメなんですよ」


 ヤジを受けて、ライガーさんとバナイさんの口論はさらにヒートアップしていく。


 ガタンッ!

 椅子を倒して、ライガーさんが立ち上がった。


「なんだとぉ!? コノヤロー!!」

「なんですか? 本当のことを言っただけでしょう」

「おまえは……。おまえは、アイツが俺たちを裏切っても平気だってのかよ!」


 バナイさんの襟元が、ライガーさんの右手によって捻りあげられた。


 ああ。これはダメだ。

 このままでは、ほかのお客様の迷惑になる。


 パンッ! パンッ!


「はい! そこまでよ。これ以上やるなら、外でやんなさい」

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