5品目 人喰いエビのフライ (1)
溶き卵と小麦粉を水に溶かして作ったバッター液。
食材をくぐらせたらパン粉もまぶして、熱した油でジュワァァっと一気に揚げる。
衣がサクサクのフライは、食堂『ヴィオレッタ』でも人気メニュー。
中でも、身がプリップリで噛むと口の中で跳ねる『人喰いエビのフライ』は特に人気が高い。
ちなみに『人喰いエビ』は手のひらサイズの小さなモンスター。
水中がテリトリーで、侵入者には集団で襲い掛かって肉を食い尽くしてしまう。
物騒なモンスターだけど、きっと彼らが食べてきた人間の量よりも、人間が彼らを食べた量の方が圧倒的に多いはず。
――お客さんの中には、コレしか注文しないっていう人もいるくらいよ。
🍺 🍗 🍺 🍳 🍺 🍝 🍺 🥩 🍺
「オカミサーン。いつもの!」
荒々しく店の扉を開けて入ってきたのは、年季の入ったプレートアーマーに身を包んだ冒険者の男。彼の名前はライガー。盾職一筋15年のベテラン冒険者だ。
「はいはい。人喰いエビのフライ定食ね」
私は「そっそっそ」と満足そうに頷くライガーさんを確認して、下処理しておいた人喰いエビをバッター液にくぐらせる。
ライガーさんがいくら常連であろうとも、お客様の「いつもの」という注文を鵜呑みにしてはならない。
「はいはい、いつも食べてるアレよね」と思って作ったら「あー、違う違う、そっちじゃない」なんて言われることは往々にしてあるわけで。
だから私は、必ず注文内容を確認してから作りはじめることにしているの。
パン粉をつけた人喰いエビを鍋に放る。
油に浮かんだ人喰いエビから空気の泡が飛び出して、ジュワァァという音が店内に響き渡った。
「いつ聞いてもいい音だぜ(ジュルッ)」
揚げる音だけで、ライガーさんの口の中はヨダレでいっぱいみたい。
油の泉に浮いている人喰いエビの衣の色が、こんがりキツネ色になってきた。
私はすばやく3尾のエビフライを掬い上げて皿に盛り付けると、ライス、スープと一緒にライガーさんの前に並べた。
「おっほおおぉぉ! これよ、これ!!」
ライガーさんがエビフライにソースをかける。
再び店の扉が静かに開いた。
入ってきたのは、これまた年季の入ったレザーメイルに身を包んだ冒険者の男。
彼も常連のひとりで名前はバナイという。こちらもベテランの剣士で、ライガーさんとはパーティーメンバーだ。
「オカミサン。ボクにも『いつもの』ください」
「はいはい。バナイさんは人喰いエビのフライとエールよね」
バナイさんはコクリと頷いた。
そこにエビフライをひと口だけ食べたばかりのライガーさんが「へっ!」と鼻を鳴らした。
「炊き立てのライスに、ソースたっぷりのエビフライを乗せて食う美味さが分からねぇとは。おまえ人生の半分は損してるぜ」
「やれやれ。タルタルソースたっぷりのエビフライとエールのマリアージュを理解できないなんて……君こそ人生の3/4は損していますよ」
どっちもどっち。
まるで子供のような言い争いをしているけど、どちらも歴戦の冒険者だ。
ふたりの視線が交錯し、辺りがピリッとする。
知らない人が見れば一触即発という空気。
だけど、私を含めて店内にいる誰も心配はしていない。
いつものことだし、このあとにお店に入ってくるだろうパーティーメンバー最後の男が全てを丸く収めてくれることを知っているからだ。
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