3品目 バンカーバードの香草焼き (4)
「君のことを愛している。だから君との婚約を破棄する」
ダナス王子から、そう告げられたのはちょうど4年くらい前。
彼がなにを言っているのか、私には全くわからなかった。
だから、そう伝えた。
「仰っている意味がわかりません」
当たり前だ。
私はこの国の侯爵の娘。
幼い頃から王子の婚約者として、未来の妃としての教育を受けてきた。
私にはなんら非は無いのに「愛しているから婚約を破棄する」などと言われても納得できるハズがない。
私はもちろん、侯爵家が納得するはずがないのだ。
「この国に未来はない。重商主義によって大商人との癒着が広がり、王家も貴族もお金儲けにしか興味がなく私腹を肥やすばかり。物価の上昇に人民はすっかり疲弊している。数年以内には内部から崩壊するか、隣国に侵略されるはずだ」
ダナス王子の話は私にとって寝耳に水だった。
父からも母からも、そんな話は聞いた事がない。
だけど、ここで「そんな話はウソだ」と言っては話は終わってしまう。
私には王子の話をウソだと断定できる材料などひとつも無いのだから。
「それならば……。王子がこの国を立て直せばよろしいじゃありませんか。私も微力ながらお手伝いします!」
これが私の精一杯。
それに対してダナス王子は静かに首を横にふった。
「もう……遅いのだ。国の腐敗とは、若年の王子ひとりが簡単に切り取れるものではない。ましてはこの国の腐敗は王家にまで届いているのだから」
「そんなことは……ッ」
無い、と言えてしまうほど、私は愚かではなかった。
言葉を継げない私をよそに、ダナス王子は話を続けた。
「早晩、この国は倒れる。濁った私欲と財でブクブクに太ったこの国に、もはや逃げ場などない。他国にとっては格好の標的だ……ふっ、まるでバカ鳥のようだな」
ダナス王子は自嘲気味に笑い、私の両肩を掴んでまっすぐに目を見つめた。
「そのとき、王族ともなれば命の補償は無い。私は……君に生きて欲しいんだ」
私はただ、泣きながら頷くことしかできなかった。
「侯爵家の令嬢が王子から婚約破棄された」という噂は瞬く間に国中へと広まり、侯爵家にも私の居場所はなくなった。
ダナス王子による一方的な横紙破りを主張すれば私は被害者になれただろう。
だけど私にはそんなことは出来なかった。
だって、ダナス王子は私のことを想って婚約を破棄したのだから。
「王子は悪くない、だけど婚約破棄の理由は言えない」
当の本人がこれでは、侯爵家もどうしようもない。
私は侯爵家を追放され、国内に居続けることも出来ず、流浪の旅人へと身をやつした。
🍺 🍗 🍺 🍳 🍺 🍝 🍺 🥩 🍺
「それなのに! それなのに、よ。オカミサン! 聞いてます? オカミサン! オカミサンってば!!」
「はいはい。聞いてますよ」
あれから3時間。
レオラさんはワインを飲み続け、私は同じ話を何度も聞かされている。
まるで絡み酒の化身ようだ。
あんまりひどいから、ほかのお客さんを入れるわけにもいかない。
だから、お店の灯りは引き続き消灯中。商売あがったり、よ。
「どーして、あの王子様の処刑台の隣にお妃様の処刑台があったんですかねぇ!?」
「そ、そうね。どうしてかしらね」
そんなこと言われても、私にわかるはずがない。
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