3品目 バンカーバードの香草焼き (3)
数日後。
食堂『ヴィオレッタ』を開店しようと扉を開けると、店先にレオラさんが立っていた。
「先日はごめんなさい」と彼女は頭を下げる。
「いいのよ。お店の中であんな話をしていた連中が悪いんだから」
結局あの後、マルコさん達は逃げるように会計をしてお店からいなくなった。
機密を聞かれたのは彼らの責任、さりとて仔細を問われても答えるわけにはいかない、と。
「食事の代金はぜんぶ持つから、何も聞かなかったことにしてくれ」と言い残して出ていったのだ。
これに懲りて、うちの食堂を打ち上げにつかうのをやめてくれれば嬉しいのだけど……。この願いが叶わないことはよくわかっている。
立ち話を続けるのも目立つから、「とりあえず……」とレオラさんと連れて店の中に入る。店頭の灯りはつけていない。
「なにか食べる?」
「じゃあ……バンカーバードの香草焼きをひとつ」
「はいよ」
香草を揉みこんでおいたバカ鳥のモモ肉を取り出す。
じっくり焼いていくと、徐々に香草と脂の匂いが混じった食欲をそそる匂いが店中に充満する。
香草焼きにはやはり――。
「飲み物はワインでいいの?」
「何があったのか、訊かないんですか?」
私はフゥと息をはく。
「……聞いてほしいの?」
「……はい」
私は自分からお客さんのプライベートな情報を訊かないことにしている。
だけどお客さんが望むのなら話は別だ。
「何があったの?」
「実は私、本当ならもう死んでたハズなんです」
「そう……死んで……え、なんで?」
これは素で訊いてしまった。
レオラさんがニヤリと笑っている。
なんだろう、この敗北感は。
さっきまで「やれやれ仕方ない。話を聞いてやろうか」という立場だったハズなのに、一瞬で立場が逆転してしまった気がする。
「この前、行ってきたんですよ」
「どこに? ってそれは決まってるわよね」
「ええ。アルバルドアです」
彼女があの日、大声を出したキッカケだ。
つい最近、この国が滅ぼしたというアルバルドア王家。彼らが治めていた小国がアルバルドア王国。
「兵隊さんが言ってたじゃないですか。『王族の処刑は3日後と決まった』って。だから、見に行ってきたんです」
言ってた……かどうかはよく覚えていない。
自分に話しかけられているわけでもないのに、マルコさん達のおしゃべりを一から十まで覚えているヒマなんて無い。
それにしても、わざわざ他国の王族が処刑されるところを見に行くなんて、普段の物静かなレオラさんのイメージとはかけ離れているように思えた。
もちろん何か理由があるのだろうけど。
「
いつものように静かに、淡々と話しているレオラさん。ただ、その表情は……。
「私の元婚約者は……、ダナス王子は私が見ている目の前で、槍に刺されて天に昇っていきました」
怒りと悲しみが綯い交ぜになったような、形容しがたいものだった。
…………え!? 元婚約者!? ダナス王子!?
情報が多すぎて頭がパンクしてしまいそうよ。
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