3品目 バンカーバードの香草焼き (1)
捕まえやすくて利用価値の高いモンスターは、冒険者にとって大切な収入源よ。
いま私が焼いている『バンカーバード』もそのひとつ。
腹に大量の脂を溜め込んでいるこのデブ鳥は、灯りなんかの燃料として重宝されている。
燃料となる脂を抜き取られたあとの肉は、食用として市場に出回るの。
ヨチヨチ歩いているところをアッという間に捕まえられちゃうから、巷では『バカ鳥』なんて呼ばれているわ。
「脂を抜き取られたあとの肉」って、なんだか抜け殻みたいに聞こえるけど、大量の脂が程よく減った状態だと思って欲しい。
つまり、とても美味しいってこと。
みんなが狙うものだから「最近は数が減ってきた」なんてボヤいている冒険者もいるくらいよ。
――ほら。バカ鳥が焼ける匂いに釣られてお客様がやってきた。
🍺 🍗 🍺 🍳 🍺 🍝 🍺 🥩 🍺
「おっ! いい匂いだな。バカ鳥か?」
「いらっしゃい。早速ひとり釣れたわね」
「はっはっは。釣られちまった。店先にこんな香ばしい匂いを振りまかれちゃ、周りの店は商売あがったりだな」
豪快に笑いながら食堂『ヴィオレッタ』の扉を開けたのは、お城の兵士長をやっているマルコさん。週に1度は必ず来てくれる常連さんだ。
「今日は連れが3人いるんだが、入ってもいいか?」
連れが3人……私は逡巡した。
カウンターだけしかないこの食堂は、大勢でガヤガヤと騒いで飲み食いする場所ではないからだ。
カウンターには常連客がひとりだけ。
4人を店の端っこに詰め込んでおけば、さほど支障はないだろう、と判断するまで約0.5秒。
「いいけど。あんまりうるさくしないでね。うちは酒場じゃないんだから」
店の奥側の席を指さして、念のために釘を刺す。
「おお。気をつける、気をつけるとも。おい、お前らも騒ぐんじゃねぇぞ」
「「「りょーかいでーーっす!」」」
マルコさんよりも、ひと回りもふた回りも若そうな新米の兵士さんが3人。
本当にわかっているんだろうか、という軽い返事をしながら店の奥に足を向ける。
すでに返事がちょっとうるさい。
というか、兵士さんはみーんな声が大きい。
「兵士の声がデカいのは、騒々しい戦場で声を張り上げてコミュニケーションを取るからだ」と前にマルコさんが言っていた。
でもここは戦場じゃないから、ちょっと落ち着いて欲しい。
「うるさかったらすぐに言ってね」
先客である常連の女性客――名前はレオラさん、こちらも週に1、2度顔をみせてくれる――に頭を下げつつ、『バンカーバードの香草焼き』が乗った鉄板をカウンターに置く。
いまだ鉄板の予熱でジュージューと音を立てて焼かれているモモ肉。ふわりと鼻先をくすぐる香草の匂い。
開店前に試食したけど、脂の乗りもほどよく、肉汁が口の中にあふれた。これは、いいモノだ。
レオラさんは無言でコクリと頷いて、フォークでモモ肉を刺した。
フォークの剣先と肉の間からこぼれたスープが鉄板の上で弾ける。
「……いただきます」と小さな声が聞こえた。
いつももの静かで、淡々とお酒を飲んでいて、なんだか気品のようなものと、薄暗い影のようなものを同時に感じさせるミステリアスなお客様だ。
そんな彼女に、間もなく重大な事件が起こる。
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