2品目 キングホエールの刺し身とベーコン (5)


「そこの」

「なにか?」


 王女であり、護衛対象であるシャーリィちゃんに対して、騎士様が毅然と返事をする。


 ここで平然としていられる強心臓。

 女性ながらに騎士になる人は心臓に毛が生えているのかもしれない。


「いつも料理を見つめるばかりで、何も食べておらんではないか」


 失礼ながら、私は感心してしまった。

 この王女様、いつも料理に夢中だと思っていたのに、ちゃんと周りにも気を配っていたらしい。


「そ、そんなことは……」


 騎士様も意表を突かれたのか、戸惑いを隠せずにいる。


「ここは食事をするところじゃ。座っているだけではオカミサンに失礼じゃろう」

「…………ッ!!」


 騎士様はなにも言い返せない。

 シャーリィちゃんの言い分が正しいとわかっているからだ。


「今すぐ決めよ。食うのか、それとも出ていくのか」


 騎士様にとって、王女の護衛は絶対。

 店から出ては任務の放棄になってしまう。


「これを……食う……」


 騎士様の前に置いてある皿にもキングホエールの刺し身とベーコンが乗っている。


 騎士様もおそらく上級貴族。

 下等な食材キングホエールを食べるのには抵抗があるのだろう。


 ちなみに『シャーリィちゃんの日』はキングホエール料理しか出さないから、他の料理はなにも仕込んでいない。



「やむをえん」


 シャーリィちゃんが見つめる中、騎士様は目をつぶってキングホエールのベーコンを小さくかじった。


 モニュ、モニュ、ゴクン。


「ん?」


 騎士様は首を傾げながら、残ったベーコンも口に入れる。


 モニュ、モニュ。モニュ、モニュ、モニュ、ゴクン。


 もうひとつ。さらにもうひとつ。

 あっという間に皿を彩っていたキングホエールのベーコンが姿を消した。


「どうじゃ? 美味しかろう?」


 シャーリィちゃんが満面の笑みで尋ねると、騎士様はキツネにつままれたような顔で頷いた。


「……お、美味しい……です」

「そうじゃろう、そうじゃろう! オカミサン、彼女にも唐揚げを出してやるのじゃ!」


 シャーリィちゃんのご機嫌なオーダーが店内に響く。


 その日から『シャーリィちゃんの日』には、シャーリィちゃんと騎士様が仲良くキングホエールを食べるようになった。


 王女様と騎士様が身分を隠したまま、友人のように庶民の食べ物キングホエールを楽しむなんて、まるで奇跡のような光景。


 ――なんて思っていた私は、まだまだ純真だった。



 私は聞いてしまったのだ。


 あの日の帰り際、いつものようにシャーリィちゃんが先に店を出ていく、その背中越しに。


「これであやつも共犯じゃ」というツブヤキを。




 2品目 キングホエールの刺し身とベーコン(了)




――――――――――――――――

 こちらが2品目となります。

 無邪気なようで、実はとてもしたたかな王女様だったんですね。

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