第128話 愛する時

「龍夜さん………んっ」


 俺は柚梪の背中に両手を通して、宝物かのように柚梪をギュッと抱きしめながら、お互いに唇を交わし合った。


「龍夜さん………」

「どうした………?」


 柚梪がつぶらな瞳で俺を見つめながら、ポロッと俺の名前を呼ぶ。


「いえ………その、今からする行為って初めてですから………ちょっと不安で」


 ほんの少しだけ視線を逸らした柚梪。


 柚梪にとって、夜の営みをするのは初めて。何が柚梪を待っているのか分からない。誰だって、初めて挑戦する事に対して、不安になるなんて当然の事だ。


 不安そうな顔をする柚梪に、俺は抱きしめる右手を、柚梪の背中から後頭部へと持っていくと、柚梪が安心するように頭を撫でる。


「誰だって、初めて挑戦する事に不安を抱くのは当然だ。でも大丈夫。俺が側に居るだろ?」

「…………」


 柚梪の滑らかなねずみ色をした髪を撫で下ろし、耳元で囁くような声でそう言った。


「俺じゃ………頼りにならないか………?」


 柚梪の反応がない事で、俺は少しだけショボンとした表情をする。すると、それを聞いた柚梪はちょっと慌てたような顔で「そんな事ないですよ!」と言葉をかけてくる。


「龍夜さんはとても頼りになります。なにせ、ボロボロだった私を助けてくれたのですから」

「…………」

「その、今からするのって………ある程度は知っているんです。けど、やっぱり………怖いと言うか」


 柚梪は自分の胸に手を当てて、早くなっている鼓動を感じる。その鼓動は、俺と初めてを体験する緊張と、不安によるものだった。


「じゃあ………止めとくか? 別に、無理してやる必要は………」

「いえ、止めないでくださいっ。確かに、怖いって言いました。それは本当です。でも、龍夜さんと本気で愛し合ってみたいんです」


 柚梪は俺の目を見て、必死に自分の思いを俺にぶつけてくる。


「ですから………私が不安にならないように、安心出来るように………私をギュッと抱きしめていて欲しいんです。龍夜さんの体の温もり………とても落ち着くんです」


 柚梪はそう言うと、優しく俺を抱きしめてくる。体全体から、柚梪の暖かい体温が伝わる。


「………、御安いご用だ」


 俺は柚梪の願いを受け入れ、柚梪が怖がらないように気持ちを込めて、優しく抱きしめる。


「これでいい?」

「はい。とっても暖かくて、落ち着きます」


 俺は柚梪の心の準備が整うまで、まるで宝物のように全身で抱きしめ、滑らかな髪を撫で下ろす。また、柚梪自身も俺を温もりを感じようと、俺に身を寄せた。




 柚梪が落ち着くまで俺の腕で包み込み、少しずつ準備を始める。


 俺と柚梪の寝転がっている布団の上には、正方形の銀に包まれた何かの袋が置かれている。


「柚梪、準備………いいか?」

「………はい」


 そして、お互いに心臓の鼓動を高鳴らせながら、俺と柚梪は準備を整える。


「うっ………んんっ………」


 ふと柚梪の辛そうな表情を見た俺は、ピタッと動きを止めた。


「柚梪、大丈夫か?」

「すごく………痛いですけど、大丈夫です。続けてください………」


 柚梪は俺を心配させぬよう、ポロッと涙を流し痛みに耐えながら、ニコッと笑ってみせる。


 柚梪がとても痛がっているのは俺にも分かっていた。しかし、柚梪がやめずに続けて欲しいと言うからには、俺は途中でやめる訳にはいかない。


 柚梪はとてつもない痛みを受けながらも、俺の思いを受け止めてくれている。それに応えないで誰が男と言えるものか。


「ぐぅ………うぅっ………」


 柚梪の辛そうな声を聞き、胸が痛くなりつつも、俺はゆっくりと動き出す。


「柚梪………これ、すげぇ良いよ………」

「うっ………そう、ですか………良かったです」


 涙目になりながらも、柚梪は嬉しそうに微笑んだ顔を俺に見せてくる。


 それは作り笑いなんかではない。正真正銘、心の底から嬉しいと言う気持ちが存分に表現された表情だった。


「龍夜さん、もう………あまり痛みもしませんから、どうぞお好きなように、私を愛してください♡」

「じゃあ………お言葉に甘えて、そうさせて貰おうかな」


 俺は一度、柚梪と唇を交わしてキスをし、心の中をリフレッシュする。


「んあっ………///」


 柚梪の口から小さな甘い声が漏れ、旅館の一室に溶け込んだ。窓から差し込む月明かりに照らされながら、俺と柚梪はお互いに『愛』を確認し合う。

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