第125話 女性同士

 温泉のお誘いを受けた柚梪は、彩音と一緒に温泉(女湯)の脱衣場へと到着していた。


 脱衣場には、4列ならぶ服やタオルを入れておく棚に、冷たいお水のでる蛇口、いわゆる洗面台が3つ取り付けられた、それなりに広さのある部屋である。


「よーしっ、早速脱いじゃおうかー」


 彩音はそう言うと、一番手前にある棚へと向かい、棚の中に設置されているカゴの中にある白の大きなタオルを取り出して、着ていた寝巻きを脱ぎ始める。


 それに対し、柚梪は彩音が着替えている反対側の棚へと向かい、1つの棚の列を挟んで寝巻きを脱ぎ始める。


 彩音、そして柚梪の2人はカゴの中に入っている大きなバスタオルを体に巻いて、いざ浴室へと向かう。


 ガラガラガラッと半透明な扉をスライドさせると、そこには広々とした空間が広がっており、右側が主にお湯の入った浴槽で、左側が体や頭を洗う所となっている。


「うーん………見た感じ人は居なさそうだね」


 浴槽を見渡す彩音は、誰も居ない事を確認。他人の視線を受けずに、2人でゆっくりと湯船に浸かる事の出来る最高の時間と言えるだろう。


 すると、彩音はさっそく浴槽へと向かい、湯船に思いっきり浸かり始める。


「うーん♪︎ やっぱり早めに来て正解だね♪︎ 他人の視線を気にしなくていいから、思う存分お湯を堪能出来るよ~♪︎」


 すっかり極楽気分の彩音に対して、柚梪は先に頭と体を軽く洗うため、彩音とは真反対の方向へと進む。


「すごい………いつもより浴室が広いからか、なんか落ち着かないですね………」


 柚梪はそう呟きながらも、常に用意されていたボディソープやシャンプーなどを使って、ささっと全身を洗い流していく。


「へぇー、柚梪ちゃんって先に体とか洗う派なんだぁー」

「そうですね。後からゆっくりと湯船に浸かるのが好きなので」


 後ろで湯船に浸かる彩音と、適当に会話をしながら身体を洗い進める柚梪。


 しかし、彩音が居る以上………バスタオルを取る訳にはいかず、体の方はほとんど洗えていない状態ではある。


 ある程度洗い終わった柚梪は、シャワーで泡を流すと、その場を立って後ろを振り向き、湯船に浸かるべく歩き始めた。


 この温泉には、3種類の浴槽があった。彩音の浸かっている浴槽、湯気が全く出ていない浴槽、お湯が濃い黄色をした浴槽の3つだ。


 柚梪はどれに入ろうか少し迷うが、湯気の立っていないお湯に対して不思議に思ったので、そっちの浴槽へと向かい始める。


「柚梪ちゃんっ、そっちは水風呂だよっ!?」

「………え? 水風呂………ですか?」


 そう、柚梪が入ろうとしていたのは『水風呂』と呼ばれるものだった。


 その名の通り、冷たい水だけが入った浴槽である。当然、水なので湯気が立つはずがない。


「………っ、ひゃぁっ!? 冷たい………」


 試しに足の爪先で触れてみるが、案の定冷たかったようだ。


 そして柚梪は、普通に彩音の浸かっている浴槽へと足を入れて、湯船に浸かり始める。


 体全身に温かいお湯で包まれ、どんな疲れも癒してくれるほどに極楽な気分へと誘われる。


「どう? 初めての温泉は?」

「はい………、すごく気持ちいいです。いつも入っているお風呂とは、また違った気分になりますね~………」


 なぜかは知らないが、お風呂とは場所が変わるといつもと違った気分や雰囲気になるものだ。おそらく、慣れの問題だとは思うが。


 彩音は少し場所を移動し、柚梪の真隣へと腰を下ろしてくる。


「いいなぁ~………」

「え? 何がですか?」


 突然何かを物欲しそうに見つめる彩音がそう呟き、柚梪は疑問を浮かべる。


「柚梪ちゃんって、服の上からでも分かるけどさ、胸大きいよね~。E~Fカップくらいはあるんじゃない?」

「………? カップ? よく分からないですけど、そんなに大きい方なんですか?」


 柚梪自身は全く気にしていないが、確かに彩音の言う通り、柚梪はそれなりに大きな胸の持ち主でもある。


「あぁ………我慢出来ないっ! 柚梪ちゃんっ! ちょっとだけでいいからさ、胸を触らしてよ!」

「ふぇっ!? な、なんでですか!?」


 突然の思いもよらない要求に、柚梪は焦りの表情を浮かべる。


「お願いっ! 3秒………いや、5秒………じゃなくて、10秒だけでいいからっ!!」

「増えてってるじゃないですかっ!!!」


 両手を合わせて深くお願いをしてくる彩音に、柚梪の顔は桃色へと染まっていく。


 例え女性同士だとしても、自分の胸を触られるのは誰だって恥ずかしいものだ。男性に触られる場合など、特にそうだろう。


「す、少しだけですからね………」

「やった!」


 どうしてもとお願いしてくる彩音に、柚梪は押し負けてしまったのか、仕方なく了承する。


 そして彩音は、その綺麗な両手を柚梪の胸へと伸ばし、バスタオルの上からそっと触れた。


「おぉ………! なんと言う弾力っ!」


 まるで変態かのような感想を述べながら、彩音は柚梪の胸を軽く堪能し始める。


「ちょっ………っ、感想言わなくていいですからっ!」

「いいなぁ~、私もこのくらい胸が欲しかったなぁ~。私のなんてあんまり大きくないし」


 しかし、言うて彩音の胸も、決して小さい訳ではない。むしろ、それこそちょうど手にフィットしそうなほどに膨らんだ胸は、世の中の男性を十分に満足させられるだろう。


 結局、10秒以上経過した後でも、柚梪の胸から手を離さない彩音は、気が済むまで柚梪の胸を堪能するのであった。


 彩音と柚梪しか居ない現在の女湯では、甘い雰囲気が展開されている。

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