第123話 柚梪の時々異常現象

 ゲームコーナーから逃げるかのように部屋へと戻って来た俺と柚梪。明日のお昼前には帰ると言うのに、今のところお土産屋しか行ってないとは………。


「あはは………、結局戻って来ちゃいましたね」


 柚梪が軽く笑いながら、そう俺に言い放ってきた。


「そうだな………。あいつらと一緒に卓球なんて、命の危険を感じるぞ」

「まあ、彩音ちゃん達ですから、そんな強くはしないと思いますけど、あのすさまじい戦いを見たら………仕方ないですよね」


 俺と柚梪はそう会話をしながら、広間へと足を運ぶ。電気をつけると、俺は朝食を取った際に座った座布団の上に腰を下ろし、「ふうっ」と息を吐く。


 柚梪も自分が使っていた座布団を両手で持ち上げると、俺のすぐ隣に移動してきて、座布団を横に置くとそのまま座布団の上に腰を下ろした。


「………。まだ昼食まで1時間以上はあるな」

「そうですね」


 うまく話題が見つからず、シーンっとした静かな時間が訪れる。


 俺は天井をボーッと見つめ、柚梪は朝旅館の人が新しく用意してくれたポットから、ガラス製の透明なコップに温かいお茶を入れて、そっと飲む。


 お茶を半分くらいまで飲んだ柚梪は、コップをテーブルの上へと置くと、そっと視線を俺の顔へ向けて、覗き込む。


「………」


 天井を見てボーッとする俺の顔を覗き込んだ柚梪は、次に反対側の壁沿いに置かれた、キャリーバッグの隣にある視線を向ける。


「………///」


 自分のバックを見る柚梪は、ポッと顔を赤く染め上げる。


「あの………、龍夜さん………///」

「んぁ?」


 柚梪はどこか緊張しているのか、少しモジモジとした様子で俺に話をかけてくる。


「えっと、ですね………。その、あの………」

「………? どうした? 何か言いたいんなら、ちゃんと言ってくれねぇと分からないぞ?」

「へっ!? あ、そ………そうですね。ちゃんと………言わない………と………」


 一体何を伝えようとしているのか分からない。だが、柚梪の顔はどんどん赤く染まっていく。それはもう赤いとか言う状態じゃない。異常なほどに真っ赤になっているではないか。


「えっ!? ちょっ、柚梪!? 大丈夫か!?」

「ふぇぇぇ………」


 やがて頭から「プシューッ」と白い煙が飛び出るほどに暑くなった柚梪は、俺の肩にすがるように倒れてくる。


 いや、倒れると言うよりかは、溶けるっと言った方が正しいだろうか?


 そんな事はどうでもいい。ともかく、柚梪の時々異常現象に対して、すぐにでも休ませてやらねばならない。


 俺は自分の座っていた座布団から柚梪を支えながら立ち上がり、座布団の上に柚梪の頭をそっと乗せる。


「えっと………とにかく冷やしてやらねぇと、タオルタオル………」


 キャリーバッグから短めのタオルを1枚取り出し、洗面台へと向かった俺は、冷たい水でタオルを濡らすと、軽く絞る。


 座布団の上で寝かせた柚梪のおでこに、2回ほど折り畳んだ濡れたタオルを乗せる。


「全く………急にどうたんだ? 柚梪」


 まるでマグマみたいに真っ赤に顔を染め上げる柚梪に、俺は疑問を抱く。


 特にこれと言って何もしていないはずなのだが、一体何が柚梪をこれほどまで体温を上げたのだろうか。もしかして、お茶なのか?


 そう思った俺は、新しいコップにお茶を少しだけ入れて飲んではみたが、それほど熱くはない。


「………ん?」


 何が原因なのか悩む俺は、ふと柚梪の顔を見ると、柚梪が汗をかいているのが目に入った。


 外とは違って、部屋には常に太陽光が射し込んでいるため、それなりに暖かい状態ではあるのだ。


 俺は瞬時にカーテンを開き、太陽光を遮断。すでに冷たさを失ったタオルを回収し、水に濡らして絞って柚梪のおでこに乗せる。


 思わぬ速さでタオルが乾くため、かなりの高熱が出ているのではないだろうか?


 しかし、首元にそっと触れてみるが、なぜか頭から下は特に熱と言うほど熱くはないのだ。


「柚梪、お前の体どうなってんの?」


 頭にだけ熱が集中するなどあり得るのだろうか。俺の疑問は膨らんでいくばかりだった。


 やがてお昼へとなり、昼食が運ばれて来たが、柚梪の分は受け取らず、俺の分だけを運んでもらった。もし柚梪が起きても、料理を全部は食べられないだろう。


「んん………」


 料理を運んでもらってすぐの事だ。柚梪がゆっくりと目を覚ます。


「柚梪、目が覚めたか。どうだ? 変な所はないか?」

「え………? はい、ちょっと頭がボーッとしますけど………」


 真っ赤に染まった顔はある程度元の状態に戻っており、柚梪は頭を片手で押さえたまま、そっと起き上がる。


「一体どうしたんだよ? 急に熱なんか出して………心配したぞ………」

「す、すみません………」


 まあ、ともかく。もう少し安静にさせれば、柚梪もすぐ回復するだろう。しかし、何が原因で頭にだけ熱が出たのか、それは分からないままだった。


 また次にこう言う事が起きるようなら、すぐにでも病院に連れて行こう。


 その後、俺は柚梪の肩に手を添えて、支えやりながら俺の分の食事を柚梪に食べさせてやったのだが、食後に何を言いたかったのかを聞いても、なぜか答えてくれようとしなかった。

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