第122話 俺の兄妹は何者だ?
あんこ、カスタード味のおまんじゅうを各1箱に、クッキーも1箱買って、合計3箱入った紙袋を持ってお土産屋から出て行く。
そのまま今度は、すぐ近くにあるゲームコーナーへと足を踏み入れる俺と柚梪。
ちょっとしたクレーンゲームはもちろん。対人出来る格闘ゲーム機や、卓球が出来るエリアも存在しており、たくさんの子供が遊んでいる。
中には、子供を見守る親も居れば、一緒に遊んだり夫婦で卓球をする家族もいる。
「あぁー!? コマンド間違えたぁー!?」
すると、少し奥側にある格闘ゲーム機コーナーから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
その声のする方向へと進む俺と柚梪。やがて、横に2人並んで格闘ゲームで対戦をする彩音と光太の姿が見えてくる。
「なんだよ姉貴。操作ミスとか珍しいじゃん」
「しょうがないでしょ! レバーに指が当たってズレちゃったんだからっ!!」
「まあ、勝ちは勝ちだから。これで同点な」
見た感じ、かなり白熱した戦いを繰り広げていたようだ。
「なんだお前ら。声でけぇよ………」
「あ、お兄ちゃ~ん♡」
「おう、兄貴と………柚梪さん」
2人は俺と柚梪の存在に気がつくと、彩音は俺に抱きついてきて、光太は少し気まずそうにする。
「彩音………ここで抱きつくなよ」
「いいじゃん♪ 仲のいい兄妹って思われるだけだから」
「そう言う問題じゃねぇんだよ。そもそも、彩音の見た目からして兄妹と思われねぇだろ」
彩音は髪色に瞳の色を変えているため、他人から見れば兄妹など思われるはずがない。
「ほら、姉貴。そろそろ決着つけようぜ」
すると、兄と姉がイチャイチャするのに見飽きたのか、光太が彩音にそう言い放った。
「そうですよ。彩音ちゃんと光太君は取り込み中なんですから、邪魔したら悪いですっ」
すると、俺と彩音がイチャイチャするのにやきもちを焼いたのか、柚梪が俺にそう言い放った。
彩音は「しょうがないなー」と少し棒読みで言いながら、ゲーム機の席へと座る。
「お前ら、対戦してんのか?」
俺がふと気になった事を彩音と光太に聞くと、光太は「うん」と頷くと、対戦の準備をしながら、簡単に今の対戦状況を教えてくれた。
「今俺が41勝で、姉貴も41勝って所」
「いや、めっっっちゃ対戦しとるやん!?」
彩音達がゲームコーナーへ行ってから、俺達の買い物が済むまで、それほど時間はかかっていないはずだが、少なくともその時間内でこの2人は、82回も対戦していることになる。
俺の兄妹達は、一体何者なのだろうか………。少し怖くなってしまった俺がいる。
「まあいいよ。これで勝った方が勝利って事でいいのね?」
「おう。問題ない」
すると、2人から感じ取れるほどのすさまじいオーラが溢れだし、周囲に居る子供や夫婦を視線を一気に集める。
ゲーム機から「レディ、ゴー!」と合図がなったと同時に、カチカチカチっ、ポチポチポチっとレバーを動かす音と、ボタンを連打する音が鳴り響く。
「うぉ………なんだ、こいつら」
「………」
あまりにも早すぎるコマンド入力に、獣を狩るような目で画面を睨みつける2人の姿に、俺は圧倒されていた。
隣に居る柚梪も、なにが起きているんだと言わんばかりの表情で、2人の事を見ている。
2人が使うキャラクターは、お互いの攻撃を避けたりガードし、反撃しては距離を取ると言った行動を繰り返し、両者とも徐々に体力が削れていく。
カチカチカチっ、ポチポチポチっと高速で鳴り響くコマンド入力の音を聞いてから、約3分ほどが経過すると、ゲーム機から「ゲームセット!」と音声が流れる。
「ふんっ、やっぱりお姉ちゃんに勝つなんて、1兆年早いのよ」
「くそぉっ、あと少しだったのに………っ」
すさまじい戦いの結果、体力ミリの差で彩音が勝利。
対戦が終わると、周囲で見ていた子供や夫婦が盛大な拍手を彩音と光太に浴びせる。
「おいおい………まるで大会並みじゃねぇかよ」
1つ言える事があるとすれば、旅館内でするような事じゃないと言う事だ。
「ふう、疲れたぁ~。それでお兄ちゃんと柚梪ちゃん! 遊ぼうよっ! 何する? 卓球?」
「姉貴、次は絶対勝つから」
そう言いながら、彩音と光太は俺と柚梪の元へとやってくる。
しかし、俺と柚梪はそんな2人に対して、明後日の方向に視線を向ける。
「いやぁ、ちょっと俺達はねぇ………」
「に、荷物もありますし………遠慮しとこうかなと………」
少しだけ冷や汗をかきながら、俺と柚梪は2人にそう言った。
「ゆ、柚梪………。部屋に戻ろうか!」
「そ、そうですねっ! まだ、用事がありましたもんねっ!」
「え~っ! せっかく来たのに遊ばないの~?」
「まあ、兄貴達も忙しいんじゃない。多分」
俺と柚梪は、少し逃げるかのようにゲームコーナーから出て行くのであった。
正直………、あんな異次元な戦いをする2人と卓球をするとなれば………一生勝てる気がしない。むしろ、命の危険を感じるほどだ。
こうして俺と柚梪は、結局ゲームコーナーで何一つ遊ぶ事なく、部屋まで戻って行くのだった。
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