第120話 あったカイロ~♪
「まだ朝早いのに、結構人が多いですね」
「朝早いって言うか、もうこのくらいの時間なら大抵皆起きてるだろ」
俺と柚梪が最初にやって来たのは、旅館の中にあるちょっとしたお土産屋みたいな小さなお店だ。
このお店に居るお客さん達は、8割り以上が私服や荷物を持っている。おそらく、今日この旅館から出て行く人達や泊まりに来た人達なのだろう。
もちろん、8割り以上と言うだけであり、この旅館へすでに泊まりに来ている人や、旅館の寝巻きを着た人も居る。
お店の広さ的に、俺や柚梪が借りている客室の1.5個分くらいだろうか。20人くらいが限界の本当に小さなお店。
俺と柚梪は、お店の中に居る人が少なくなるのを待つ。
「柚梪、どれがいい?」
「え? 買ってくれるんですか?」
「あぁ、ちょっと空くまで時間かかりそうだからな」
「じゃあ、オレンジジュースで」
俺はお店の外壁沿いに設置された自動販売機で、自分と柚梪用の飲み物を買うと、その隣にある3人ほど座れる木製の細長い椅子に座る。
オレンジジュースを柚梪に手渡し、お互いに飲み物を飲んで人が少なくなるのを待つ。
今の所、お店の中に新しく入っていく人は見当たらないから、少し待てばその内減るであろう。
「うぅっ、やっぱりオレンジジュースはやめとけばよかったです………」
「………? なんでだ?」
隣に座る柚梪が、缶のオレンジジュースを両手で軽く握りながら、少しか弱そうにそう言った。
「体が寒くなって来ました………」
「あぁ、そゆことね。最近さらに寒くなってきたからな」
もうすぐで10月も終わり、11月へと突入する。現在は10月30日。ちょうど明日がハロウィンだ。
ちょうどいいから、このお店で何かしらのお菓子を買って行こうと思っていると、隣で寒いと言いながらもオレンジジュースを飲む柚梪。
「柚梪、寒いなら無理して飲むな。体調崩すぞ」
「だって………せっかく龍夜さんから買って貰ったんですから………無駄には出来せん………」
このオレンジジュースは、缶自体があまり大きくないため、それほど量は入っていない。
柚梪は缶の先端に口をつけると、その缶を一気に上へと傾け、中に残っているオレンジジュースを飲み干した。
しかし、冷たいオレンジジュースを一気に飲んだ事で、体全体に寒気が広がり、柚梪は少し顔を青くする。
「ご、ごちそうさまです………ブルブル」
「はぁ、無理するなって言ったろうが」
俺はため息を吐くと、上に羽織っていた濃い緑色の上着を脱いで、背中から柚梪に着せる。
「ほら、柚梪に体調崩されたら、心配するだろ。せっかく旅館に来たんだから、しっかりしてくれ」
「………はい、すみません」
柚梪は受け取った上着の袖をギュッと握り、その袖で口元を隠す。まるで、恥ずかしがっているかのように。
柚梪から缶を回収した俺は、飲み干した自分の缶と一緒に自動販売機の隣に設置されたゴミ箱へ捨てる。
そして、お店の中を覗いてみると………まださほど時間が経過してない事から、おまり人は減っていなかった。
「あれー? お兄ちゃん! ここに居たんだー」
すると、俺と柚梪が来た方向から聞き覚えのある声がし、その方向へ視線を向けると、そこには同じく寝巻きを着た彩音と光太がいた。
「彩音と光太か。ゲームコーナーか?」
「うん。そうだよー。お兄ちゃんは何してるの? それと、柚梪ちゃんどうかしたの?」
「ちょっとこの店に入ってみようと思ってな。人が多いから減るの待ってる。柚梪は、寒いって言いながらも冷たいジュース一気に飲みしてダウン中」
俺の話を聞き終えた彩音は、「ふーん」と言いながら上着のポケットからある物を出しながら柚梪に歩み寄る。
「柚梪ちゃん、はいっ。これあげる」
「………? なんですか、これ?」
彩音が柚梪に見せたのは、長方形の白い物。
彩音はその白い物をシャカシャカと振り始める。ある程度その白い物を振り終わると、そっと柚梪に手渡した。
「………っ、暖かい」
「これはね、カイロって言うの。あったカイロ~♪︎」
柚梪が手に持っている白い物は、振ったりこ擦り合わせたりすることで、熱を発生させるカイロ。
暖かくなったカイロを、柚梪は興味津々に眺めながら優しく握る。
「冷たくなってきたら、またさっきみたいに振ったら暖かくなるから。じゃあお兄ちゃん。私達行くねー」
「おう。ありがとな」
そう言った彩音は、光太を連れて近くのゲームコーナーへと歩いて行った。
お店である程度買い物が終わったら、俺達もゲームコーナーとやらに行ってみるか。
「………。よかったな柚梪。いいもの貰ったじゃん」
「はい。まるで………龍夜さんに抱きしめられてるみたいです」
「おいおい、外ではそう言う事を言うな………」
うん。なんやかんや言って………今日の柚梪も変わらず可愛いくて安心した。
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