第119話 変な違和感
部屋に太陽の暖かい日差しが行き渡り、ぐっすりと寝ている俺と柚梪を照らす。
ほのかに顔を照らす暖かくぽかぽかする日差しに、俺はゆっくりと覚醒する。
「………んん?」
細く目を開けると、そこには穏やかに眠る可愛いらしい寝顔をした柚梪がいた。柚梪は俺の左腕を枕にし、俺の右手は柚梪の腰の上を通って背中へと伸ばしていた。
お互いに一度も寝返りをしていないと言うのか………。
深い眠りについていた俺は、部屋の明るさに目が慣れると、すぐに起きる事が出来た。
「柚梪、柚梪。朝」
「ふぇ~………?」
俺は腕を解放するために、柚梪の肩を優しく空いている手で揺さぶると、寝癖が目立った柚梪がゆっくりと覚醒した。
俺の腕から柚梪の頭が離れると、俺は起き上がってあぐらをかいて座る。
「んん~………ふわぁ~」
柚梪も俺につられて起き上がると、手で口元を隠しながらあくびをした後、倒れるかのように俺の胸元に体を寄せてくる。
「柚梪………もう朝だ。ちゃんと起きて?」
「………。ねむいですぅ………」
柚梪の子供みたいで可愛いらしいその姿に、俺は少し微笑んだ状態で、短く1回息を吐く。
「眠たいなら寝ていいよ? 俺は歯を磨くから置いてくね」
「ふぇぇ………いやぁ、わたしもみがくぅ………」
俺はそっと立ち上がると、柚梪も手で目元を擦りながら起き上がる。
やがて、洗面台で歯磨きを終えた俺と目が覚めた柚梪は、朝食の時間になるまでに布団を折り畳み、テーブルを出す。
時刻は朝7時10分。朝食は7時30分に持ってこられる。
もし時間になっても寝ていて部屋の玄関の扉が閉まっていれば、朝食を運ばれる事はなく、後から旅館の人に言う事で朝食を受けとる事が出来るそう。
布団を折り畳んで隅に置き、テーブルをずらして元の位置に戻し、髪の毛等を整える。
時間になると扉をノックする音が聞こえ、扉を開けると旅館の人と名前の知らない段数の多い車輪付きの押し物を側に置いてあった。
食事を運んでもらうと、旅館の人は早々に部屋を出ていく。
座布団の上に座った俺と柚はは野菜に魚、味噌汁と白米と言った和風の朝食を食べた。
それから数十分後。
「柚梪、支度が出来たら旅館を見て回ろっか」
「はい、私はもうある程度大丈夫ですけど」
柚梪はそう言うと、持参したバックから手鏡を取り出して、髪の毛が跳ねていないか最終チェックをする。
手鏡を閉じてバックにしまうと、柚梪は『もう大丈夫です』と言わんばかりの顔で俺の方を見てくる。
「はいはい。ちょっと朝早いけど、行くか?」
「はい! 行きましょう! 時間は多くあるに越した事はありませんから」
「まあ、確かにな」
俺はそう言うと、座布団の上に座っていた状態から立ち上がり、スマホと財布と言った必要最低限の物だけを寝巻きのポケットに入れる。
寝巻きから私服に着替えないのかと言うと、この旅館ではどちらでも構わないのだ。
寝巻きのまま旅館内を歩く人も居れば、私服に着替えて外へお出かけする人もいる。番号付きの鍵をカウンターにいる人に渡せば、泊まる期間内であれば、朝8時から夜20時まで外出が出来るようだ。
俺と柚梪は部屋から外に出ると、鍵をかけて廊下を歩く。
「まあ、見て回るって言ってもお昼までだけどな」
「はい。だから早めに部屋を出たんじゃないですか」
俺と柚梪は肩を並べて、旅館の廊下を歩き一度旅館の受付カウンターのあるロビー的な広間へと向かう。
車の中で父さんと母さんが話してる所を聞いた感じ、ちょっとしたスポーツの出来る場所や温泉、お土産などが売っているお店などがあるらしい。
この旅館はほとんどがお客さん用の部屋だが、ちゃんとそう言った楽しめるような所もあるらしい。
こうして俺と柚梪の、少し短めな旅館探検が幕を開ける。
一方、039番の部屋では………。
「光太光太、ゲームルームって所に行ってみようよー」
「ゲーム? そんな所あんの?」
父さんと母さんは2人仲良くテレビを見ている中、彩音は光太にそう誘っていた。
「あぁ、行く」
「よーし、なら早速行こう! あっ、そうだ! お兄ちゃん達も誘って行こうか! ちょっと待っててね。すぐに髪結び直してくるから、お兄ちゃん達呼び行っててよ」
「ん、分かった………あっ」
光太は折り畳まれた布団から立ち上がり、隣の040番の部屋へ行こうとするが、とたんに足を止める。
「………。姉貴、やっぱ2人で行こう」
「えっ? なんでー?」
「いやだって、俺が………いや、なんか姉貴と一緒に行きたい気分」
「わーお、めっずらしぃ………光太がそんな事言うなんて、お姉ちゃんちょっと嬉しいよ!」
光太は立ったまま、少しだけ視線を上に向ける。
「………。まあな。(兄貴と柚梪さん………毎日イチャイチャラブラブしているし。懲りないのか?)」
「………っ」
「………?」
ロビーのような広間から別方向に続く廊下を歩いていた俺と柚梪は、とたんに足を止めた。
「んん~? なんか、変な違和感を感じたような………」
「奇遇だな柚梪。俺も少しだけ変な感じがしたんだ」
「………?」
「………?」
俺と柚梪は、そう言い合うと少しだけ頭を横に傾げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます