第5章 恋人以上の関係
第112話 2泊3日の旅館生活
「さあ、そろそろ時間だ。皆忘れ物はないか?」
「俺と柚梪は大丈夫だ」
「私もオッケ~」
「俺も」
翌日の朝9時30分。俺達は朝食を食べ終わり、各自荷物の確認をし終わると、一斉に外へ出ると、父さんの最大7人乗りの大型車に乗り込み、長い旅が始まった。
運転・助手席に父さんと母さん、真ん中の2席に彩音と光太、一番後ろの3席に俺と柚梪の順番で座っている。
俺と柚は隣同士で、空いた1席にキャリーバッグを置いている。父さん達は楽しくお喋り、彩音は夜寝れなかったようでお眠り中。光太はゲームをし、俺と柚梪は同じ外の景色を眺める。
コンビニでお昼ご飯を買って食べたり、サービスエリアで休憩を何回か挟み、長い道のりを走った。
「龍夜さん龍夜さん。あそこに男の人が何人か立って、何かしてますよ」
外の景色を眺めていた柚梪が、海沿いの岩の上に立って何かをしている男性を数人発見した。
「釣りだな。結構寒いってのに、よくやるよな」
その男の人達は、釣竿を持って釣りをしているのだ。11月に入りそうなこの時期は、寒くなってきているのに、よく海付近に居れるものだ。
そして、お昼の12時20分頃。無事に大きな旅館の駐車場に到着。
「彩音、光太、着いたぞ。起きろー」
「んあぁ………? ふわぁ~………」
父さんが寝ている彩音と光太を起こす。結局光太は、ゲームで目が疲れたのか、いつの間にか寝ていたらしい。
「柚梪。着いたって。起きて」
「んん~………」
柚梪も長旅で疲れ、俺の肩に寄り添いながら寝ていた。可愛いらしい寝顔をする柚梪の肩を優しく揺さぶりながら、そう声をかけると、ゆっくりと目を覚ます。
目が半開きの柚梪は、右手で右目を軽く擦ると、車から降りる俺の後ろをついていく。
全ての荷物を下ろして、父さんが車に鍵をかけると、旅館へ向かって歩き始める。
駐車場から旅館までは、5分もかからないくらいの道のりがある。
そして、目の前に現れたのは、ほとんどが木材で作られた大きな旅館。縦に設置された窓をみる限り、最低でも4階はありそうだ。
さらに、旅館の右端からは白い煙が出ている所がある。あれは温泉だろう。
「うわぁ………思ったより大きかった。写真撮ろーっと♪︎ ほらほら柚梪ちゃんも~♪︎」
ポケットからスマホを取り出して、旅館と一緒に自撮りをする彩音。その自撮りに巻き込まれた柚梪は、彩音がシャッターを押す寸前で、指でピースサインを
作る。
まるで修学旅行に来た生徒みたいだ。
「写真撮るのはいいが、先に荷物を置いてからにしろ。それから、少なからず人も居るんだから」
俺がそう言うと、彩音は「お兄ちゃんがそう言うなら後にしよっと」と言って、ポケットにスマホを入れる。
やがて、旅館の中へ入ると、赤紫の浴衣みたいな服装をした女性が、「いらっしゃませ。よくぞおいでくださいました」とお出迎えしてくれる。
「予約をされておられますか?」
「いえ、招待状を貰って来ました」
そう言って父さんが胸ポケットから、会社の社長さんから貰った招待状を取り出し、旅館の人に手渡した。
「はい、確認いたしました。如月様ですね。お待ちしておりました。どうぞ、お上がりくださいませ」
そう言われた俺達は、靴を脱いですぐ隣に置かれてある下駄箱に入れ、用意されている旅館専用のスリッパに履き替えた。
平日にも関わらず、それなりの人達がこの旅館に泊まっているようだ。どこかへ向かう人や、廊下でお喋りする人など様々だ。
「如月様は、1階にございます039番のお部屋と、040番のお部屋をお使いください」
父さんは旅館の人から番号付きの鍵を2つ手渡される。
「ほい、龍夜。040番はお前と柚梪ちゃんで使え」
「え? 俺と柚梪で?」
040番と書かれた鍵を父さんから受け取る。
「まあ、こう言う所には滅多に来ねぇんだ。柚梪ちゃんと2人で思い出作っとけ」
父さんは俺の肩を2回ほどポンポンと軽く叩くと、旅館の人が部屋へと案内を始め、父さん達はそれについていく。
「たくっ、余計なお世話っつーの」
「龍夜さん? どうしたんですか?」
皆が歩いて行く中、その場から動こうとしない俺に、柚梪が心配をしてくる。
「あぁ、大丈夫。ごめんな」
俺はそう柚梪に言うと、キャリーバッグの取っ手を持って、キャリーバッグを持ち上げると、柚梪と一緒に父さん達の後ろをついていく。
この2泊3日の旅館内で、柚梪とさらに深い関係へと発展する事を、今の俺は思いもしなかった。
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