第113話 旅館の部屋
039番と040番の部屋は、旅館の中でも一番端にある部屋だった。どうやら、1階ごとに40個の部屋があるようだ。
父さん達は039番の部屋に、俺と柚梪は040番の部屋に入る。
鍵を開けて扉を開くと、すぐ隣にはトイレと洗面台、個室のお風呂があって、正面には6人居ても広いくらいの床が畳な広々とした空間だった。
部屋の真ん中には、縦に長い長方形のテーブルが1つあり、部屋の端には座布団が6枚積み重ねられている。
小型のテレビも1つあり、壁に取り付けられた
「最大6人部屋か。別に、俺達を別けなくてもよかったんじゃねぇか?」
ある程度部屋中を見て回った俺がそう呟く。
今日俺達は、父さん・母さん・彩音・光太・俺・柚梪のちょうど6人だ。1つの部屋だけ借りたんでよかったと俺は思う。
まあ、少なければ場所をその分とらなくて済むかもしれないが、正直俺と柚梪2人でこの部屋を使うには勿体な過ぎる。
「いいじゃないですか。せっかく用意してもらったんですから」
すると、邪魔にならないよう部屋の壁沿いに荷物を置いた柚梪が、そう言いながら俺の所に歩み寄ってくる。
「私は、龍夜さんと2人きりの空間を設けてもらって、とても嬉しいですよ?」
柚梪がニコッと可愛い表情を見せる。
別に俺も嫌と言う訳ではないが、柚梪も喜んでいるみたいだし………まあ、気にする必要はないだろう。
俺もキャリーバッグを部屋の壁沿いに置くと、座布団を1枚持って、テーブルの前へ置き、座布団の上に「ふうっ」と息を吐きながら腰を下ろす。
それを見た柚梪も、同じく座布団を1枚持って、俺の隣へ置くと、座布団の上に腰を下ろす。
休憩を挟んでいたとは言えど、3時間ほど車に乗っておくのはさすがに疲れる。俺はさっそくリラックスのモードに入る。
テーブルの上には、6つの透明なガラスのコップが逆さに置かれており、ボタンを押すと飲み物が出てくるポットも置いてあった。
俺はコップを1つ取って、ポットの飲み物が出てくる所の下に持っていくと、ポットのボタンを押す。
すると、ポットから薄い緑色の温かいお茶が出てきた。
「お茶が元から置かれてるのか。これはありがた………あっつ!?」
思った以上に熱々だったようだ。これは少し冷ましてからじゃないと飲めたものじゃない。火傷してしまう。
「柚梪、このお茶は冷ましてから飲むんだ。さすがに熱過ぎる」
「はい、分かりましたけど………大丈夫ですか?」
手を離してしまうほど熱いと言う訳ではないが、子供には絶対このまま飲ませてはいけない物ではある。
「まあ、大丈夫だ」
俺は柚梪にそう言うと、ポケットからスマホを取り出して、電源を入れる。
「龍夜さん、せっかくですからこの旅館を探検しましょうよ!」
柚梪が俺の片腕を軽く抱き締めてくる。
「夜じゃダメか? さすがに長旅で疲れてるんだ。少しゆっくりさせてくれ」
「分かりました。じゃあ、龍夜さんに寄り添って置きますね♪︎」
探検したいと言いながらも、本当はめちゃくちゃ甘えたかったのでは? と思うかくらい、べったりとくっついてくる柚梪。
「柚梪、お風呂なんだが、部屋でも入れるし温泉もあるみたいなんだ。一緒には入れないけど、どっちにする?」
俺が柚梪にそう問いかけると、柚梪は「う~ん」と声を漏らしながら少し悩む。
「私はどっちでもいいですが、あまり人が多い所は落ち着かないので、お部屋のお風呂を使おうかなと」
「分かった。じゃあ、後で沸かしておこう。早めに入って、ご飯食べたら彩音達と探検に行くか」
そして俺は、スマホの画面で電子小説を開き、車の中で読み途中だった物語の続きを読み始める。
一方柚梪は、猫みたいに俺に寄り添って甘えてくる。
「ちょっとーっ! 光太っ!! それ私が食べようとしてたクッキー!!!」
「あ、悪い姉貴。あと1つしかねぇや」
「もうっ!! 旅館に着いたら全部食べるつもりだったのにぃー!!!」
「はぁ、あいつらめちゃくちゃうるせぇじゃん。壁越しに聞こえてくるし。反対側の部屋には誰も居ないみたいでよかったよ」
「あはは………」
隣の部屋に居る彩音と光太のうるさい会話を聞きながらも、俺と柚梪は静かでちょっぴり甘い時間を過ごしていた。
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