第110話 如月家に住む最後の人物
「ただいま」
そう言って家に入って来たのは、黒い制服にズボン、リュックサックを背負った1人の男。
その声は多少低く、まさに陰キャとも言えるような人物だった。玄関近くにあるキッチンにて、夕飯の準備をしていた母さんが、その男に気がつくと、「おかえり」と男に言った。
「母さん、兄貴は?」
「もう来てるわよ。リビングで彼女さんと一緒に居るはず」
「そっか」
そう言って、その男はリュックサックを背負ったまま、リビングへ向かう。
やがて、リビングのこたつでぬくぬくしながら、彩音と柚梪は楽しくお喋りを楽しみ、俺はスマホを弄っていた。
サッとリビングの扉が開き、リビングに居た3人の視線が扉へと向く。
「………よっ、久しぶり。兄貴」
「おぉ、光太。久しぶりだな」
その男とは、俺の家族………如月家に住む最後の1人。
光太は俺達兄妹の中で、最も年齢が低い。俺が大学1年に比べて、光太は中学2年と年齢が離れているのだ。
光太は、一歩リビングに足を踏み入れると、ちょうど視線の先に座っていた柚梪と目が合ってしまう。
「………あ、どうも初めまして」
「いえ………、こちらこそ」
光太は少々人見知りな所があり、初めて合う柚梪に緊張しているようだ。
「光太、そんなに緊張しなくて大丈夫だよー。柚梪ちゃんはとっても可愛いくていい人なんだからぁ」
すると、彩音が光太に対してそう言い放った。
「あのなぁ、姉貴………普通初めて顔を合わせる人が居たら、誰だって緊張するはずだろ。姉貴は自由気まま過ぎなんだよ」
「いいじゃん別にー。人それぞれなんですー」
ぷいっ、と頬を少し膨らませて顔を背ける彩音。そして、光太は次に俺へと視線を向ける。
「兄貴、えっと………この女の人が、母さんの言ってた彼女さん?」
「あぁ、まあそうだな。柚梪って言うんだ」
俺は柚梪に視線を向ける。すると、柚梪は何かを察したみたいで、楽にしていた体制から、正座へと切り替える。
「あの、柚梪って言います。よろしくお願いします」
「あ、いえ………こちらこそ、よろしくお願いします」
柚梪が丁寧な言葉使いで自己紹介をすると、光太も丁寧な言葉で応える。
「光太。先に荷物を置いてこい。夕飯もすぐできるだろうからな」
「おう、分かった」
そう俺が光太に言うと、光太はリビングから出て行き、自室へと向かって行った。
「もうっ、お兄ちゃんの言う事はちゃんと聞くのに」
彩音は頬を膨らませて、少しに気に食わない様子だった。かと言って、彩音と光太は仲が悪いと言う訳でもないが。
やがて夕食の時間になり、人数が多い分、母さんが奮発して色々な料理を作ってきやがった。そのせいで、こたつの上は料理が乗ったお皿でいっぱいだ。
家族+柚梪の6人で、豪華な夕食を楽しみ、お風呂も済ませた。
そして、夜の20時頃。俺・彩音・光太・柚梪の4人で、リビングのテレビを使いとあるサバイバルゲームをして遊んでいた。
「ねぇ!? ちょっと!? 後ろから骨野郎が4体も来てるんだけどっ!?」
「あーもうっ、姉貴うっせーよ。俺が倒しとくから兄貴と宝石掘ってて」
「龍夜さん、ここにお水の入ったバケツを使えばいいんですか?」
「そう。それで頑丈な石に変わるんだ。ん~、見た感じ5つだな。採掘ツールと、能力付与の本を作るんでいいか」
テレビの前に4人で集まり、コントローラーを持ってワイワイとゲームで遊ぶ俺達。
その後ろで、こたつでゆっくりしながら俺達の遊ぶ姿を眺める父さんと母さん。
「なんだか懐かしいわね。この感じ」
「そうだな。俺も仕事が忙しくて、滅多に帰ってこれない上に、龍夜も家を出ているからな。こうして家族全員揃うのはいつぶりだろうか」
おまけに、世界中の誰にも負けないくらいの美人さんも居る。父さんと母さんは、その雰囲気を盛大に味わっていた。
遊べば遊ぶほど、時間はどんどん過ぎていく。柚梪と2人でのんびりとしている時は、ゆったりと時間が進んでいくだけなのに、なぜこう言う時だけは、あっという間に時と言うものは過ぎるのだろうか。
気がつけば時刻は夜の22時を過ぎた頃にまでなり、ゲームをやめて、それぞれ寝る準備を始めていた。
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