第109話 反省

「柚梪、入るぞ?」


 柚梪を部屋で反省させ始めてから、約45分。そろそろ迎えに行ってもよい頃だろうと判断した俺は、柚梪が居る自室へと向かった。


 そして、部屋の扉を開いて中に入ると、ベットの上に座って、お喋りをしている彩音と柚梪を発見する。


「あ、お兄ちゃん。やっほ~」

「なんだ。どうりで降りて来ないと思ったら、柚梪と一緒に居たのか」


 彩音は俺の姿を見てパアッと表情を明るくするが、柚梪は何やらモジモジとしている様子だ。


 まあ、怒られた後だから、気まずくなるのは仕方ない事だろう。


「………っ、龍夜さん」


 そして俺は、ベットの上に座る柚梪の前に歩み寄ると、腰に手を当てて柚梪を見下ろし、柚梪は俺の事を見上げる。


「柚梪。ちゃんと反省したか?」

「はい………しました」

「………」


 柚梪がそう言った後、俺は無言で柚梪を見つめる。


「お兄ちゃん」


 すると、まだ怒っていると感じたのか、彩音が俺の名前を呼ぶ。


「なんだ?」

「許してあげてよ。柚梪ちゃん………ほんの数分前まで泣いてたんだからさ」

「あ、彩音ちゃん………それは言わなくていいから………っ」


 ポッと顔をほんのりと赤くする柚梪。


「いや、別にもう怒ってはないぞ。ただ、あまりにも簡単に許せば、いくら柚梪だからとは言えども、またやりかねないからな。こう言う時は、俺も心を鬼にしなきゃならん」


 子供がそうだ。


 最初は誰だってやっていい事と悪い事が分からない。なぜそう言った事が判断出来るようになったのか。それは、親がちゃんと叱って子供に教えているから。

 

 怒るからこそ、子供は『また怒られる』と言う恐怖心で悪さをしなくなる事が多い。

 しかし、『ダメだよ』と優しく注意するだけで許してしまえば、子供は『そう対して怒られない』と思い込んでしまい、同じ悪さが何度も起こる。


 もちろん、世の中には怒って言い付けをしても、それを聞かない子供だって少なくない。


 だが、親の指導があるからこそ、こうして俺や彩音、光太は楽しく生活してきたのだ。


 柚梪は普通の子供と違って、厳しい家庭に産まれてきた。そこらの家庭に住む子供達よりも、よっぽど厳しくしつけされてきたことだろう。


 だが、人間である限り、悪慈恵が働く事は誰だってある。それが人に迷惑をかけたり、やってはならない事ならば、しっかりと叱らなければならない。


「柚梪。反省したんだな? もう迷惑かけるんじゃないぞ。いいな?」

「はい………ごめんなさい………」


 柚梪もしっかりと反省をした様子だ。そろそろ部屋から解放してもいいだろう。


 そして俺は、自室から出ようと廊下へ向かう。部屋出る寸前で足を止めて、ベットに座る柚梪と、部屋の真ん中で立ち尽くす彩音へと視線をむけた。


「柚梪、彩音。今皆でみかん食ってるんだけど、2人も食べるか?」


 俺がそう2人に言うと、柚梪と彩音は一度お互いを向き合った後、彩音の「食べる~♪︎」と言う言葉と同時に、2人は俺の前へと歩み寄ってくる。


 部屋の電気を消して、俺と彩音は階段を降り、柚梪は部屋の扉を閉める。


 そして柚梪は、俺と彩音が先に1階へ降りた事を確認すると、スカートのポケットの中から、彩音に貰ったピンク色の小さい袋を1つ取り出す。

 

「………っ///」


 両手で軽く握ったその袋を、柚梪は少しの間見つめていると、やがて頬が赤くなる。


「柚梪、まだか?」

「………っ!?」


 降りてくるのが遅い柚梪に、1階から自分を呼ぶ俺の声に、柚梪はビクッと体を震わせ、ピンクの袋を落としそうになるが、なんとかキャッチ。


 ふうっ、と一息吐くと、柚梪はポケットに袋を入れて、「今行きます」と言って階段を降りて行った。


 その後、リビングへ戻った俺と彩音、そして柚梪は、母さんと父さん合わせて5人でこたつに入り、みかんを剥いて食べながら、皆でワイワイお喋りする。


 気がつけば、外は徐々に暗くなり始めて、夕方へとなりだしていた。


 午後16時40分頃の事。


「………ただいま」


 黒の制服にズボン、そしてリュックサックを背負った、少し長い黒髪をしたある男性人物がそう言って如月家へと入って来た。


 

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