第107話 可愛い妹の帰宅

「たっだいま~!」


 柚梪を自室で反省させ始めててから約30分。


 時刻は15時45分頃のことだ。玄関からある女の子が家に帰ってきた。


「お、おかえり。もうそんな時間か?」


 たまたま玄関前の廊下に居た俺は、その女の子にそう声をかける。


 紫色のツインテールに、リボンがついた制服、赤紫の瞳。その見馴れた姿こそ、俺の妹である如月彩音が、学校から帰宅したのだ。


「実はね、今日16時から電車が止まるんだって。なんか事故? があったみたい」

「それでちょっと帰ってくるのが早かった訳か」


 靴を脱いだ彩音は、やや駆け足で俺の元へ近寄ってくると、バッグをボトッと床に落として、両手を大きく広げた後、俺の体にギュッと抱きついてくる。


「お兄ちゃんただいま~♪︎ んん~♪︎ ぬくぬく~」


 さらに力を込めて抱きしめてくる彩音。


 俺の身体と彩音の身体が密着し、彩音が力を込めるほど、程よく膨らんだ胸が押しあてられる。


「お兄ちゃ~ん♡ 大好き~♡ えへへ~」


 彩音は、俺にだけ聞こえるくらいの小さい声で、気持ちを伝えてくる。


「はいはい、早く荷物置いてこい」

「は~い♪︎」


 じっくりと俺の体温を堪能した彩音は、床に落としたバッグを拾って、ルンルンな気分で2階へと上がっていった。


 なぜかは知らないが、今日は気分が良いようだ。


「あ、お兄ちゃーん」

「あ? なんだよ………」


 2階から俺を呼ぶ彩音に、1階から彩音を見上げる俺の視線は、2階から見下ろしてくる彩音の目と合う。


「後で遊ぼ?」

「遊ぶって………何して遊ぶんだよ」

「うーん………ひみつ?」


 彩音はそう言うと、再び2階を上がり始めてた。


 しかし、階段を2つほど上がった時、また彩音は2階から1階を見下ろし、俺と目が合う。


 ちょうどその場を離れようと、視線をリビングの方向へ向けようとしていた時だと言うのに、今度はなんなのだろうか?


「………ふふっ」

「………? なんだよ、急に笑って」


 謎の笑みを浮かべる彩音に、俺は首を横に傾げた。


「お兄ちゃん………彩音のパンツ見たでしょ?」

「は?」


 すると、彩音はそう言ってきたのだ。


 確かに、彩音が突然背後を振り向いて、階段を登り始めるから、白い下着がチラッと見えたは見えたが、俺は下から見上げていた状態だ。突然階段を登られたら、見えてしまうのも仕方ないと思う。


「まあ、急に彩音が階段登り始めるから、チラッと見えてしまったが………」

「やんっ♡ お兄ちゃんのエッチ♡」

「うっせー。はよ行かんか」


 彩音は俺をからかうと、2階へとっとと登って行った。


 2階にある彩音の自室。机の上にバッグを置いて、制服の一番上を脱ぐと、椅子の背もたれに引っ掻ける。


 白のジャージに、首元からリボンをぶら下げ、腰から膝より少し上まで、暗い青色の短いスカート姿の彩音。


 白いジャージは、彩音の膨らんだ胸を強調し、太ももから靴下を履いている足首まで露出した肌は、滑らかですべすべしている。


 家の中や、俺の前ではヤンチャな彩音だが、他人目線から見ると、柚梪と同様の美人さんだ。


 ましてや、髪色を変えてカラコンもしている事から、アニメのキャラクターみたいと学校でも評判が高いそうだ。


「あーあ。お兄ちゃんが帰ってきてくれたのは嬉しいけど、お兄ちゃんのベットで少しの間寝れないのは残念だなぁ」


 ピンク色ベットに腰を降ろし、両足をぶーらぶーらとさせながら呟く彩音。


 ゴロッとそのままベットの上に倒れ込む彩音は、ピンク色の枕を手に持って、ギュッと俺を抱きしめるように枕を抱く。


「お兄ちゃんと血が繋がってなければなぁ、結婚とか~あんな事やこんな事が出来るのに~。柚梪ちゃんが羨ましいなぁ」


 ゴロゴロとしながら、頭の中で俺と彩音がイチャイチャしている所を勝手に妄想する彩音。


「やだ♡ どんどん物語が展開されちゃう♡ お兄ちゃ~ん♡」


「はっくしょん!?」

「やだ、龍夜大丈夫? 寒いの?」

「いや、なんだろうな? 急に寒気がしたんだけど………」


 その後、リビングで母さんと父さんと一緒に、テレビを見ながら雑談していた俺は、背中に寒気を感じていた。


 彩音は枕を抱きしめ、ベットの上をひたすらゴロゴロとする。


「お兄ちゃん♡ 好き~♡ 大す………」

「うわぁ~ん………」

「ふぇ!? 何っ!?」


 突然別の部屋から女の人の泣き声が聞こえ、彩音は思わずベット飛び跳ねてしまう。


 ギュッと枕を抱きしめたまま、彩音は部屋から顔を出す。すると、目の前の部屋………俺の自室から、何やら女の人の泣き声が聞こえるではないか。


「うぅ………ひっく………うえ~ん」

「お、お兄ちゃんの部屋から………女性の泣き声………っ」


 彩音は恐る恐る俺の部屋の前に来ると、扉の取っ手に手をかけて、そっと中を覗く。


 そして、そこで泣いていた女性とは………


「………え? 柚梪ちゃん?」

「………ふぇ?」


 地べたに座って、必死に涙を手で拭う柚梪だったのだ。

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