第102話 昼間のイチャイチャ

 駅を出ると、そこは大型のショピングセンターや、高層ビル、マンションなどが建ち並ぶ都会。子供から高齢者まで、様々な人が歩いている。


 そんな都会では、人混みが非常に激しい。その為、いつもより柚梪と繋いだ手を少し強めに握りしめる。


 お互いにスマホを持っているから、万が一はぐれてしまっても、電話で位置を確認出来る。だが、その分時間を使ってしまう。こう言う人混みの激しい所は、長居するとなぜか疲れるのだ。


 車や巨大テレビと言った色々な音が混じるこの都会を進んで行き、やがて大きな川の上に作られた1本の橋が見えてくる。


 その橋を歩いて進むと、やがて一軒家やコンビニなどが建ち並ぶ住宅地へと入る。


 先ほどの都会と違って、人混みは全くなく、音もうるさくない。時々車が横を通るくらいで、とても静かで落ち着く場所だ。


 駅から歩き始めて、早くも20分以上が経過していた。柚梪も少し足が疲れてきたのか、歩くペースが落ちている。


「柚梪、大丈夫か?」

「はい、なんとか………。まだ頑張れます」


 揉み上げ付近から汗が流れ出る。顎まで流れたその汗は、やがて地面へポタッと落ちる。


 10月の後半。寒くなってきたとは言え、太陽の光を浴びながら、長距離を歩いて来たのだ。疲れるのも当然。


 実家を目指して、住宅地の中を歩いていると、やがて小さめな公園が見えてきた。


「お、ちょうどいい。柚梪、あの公園で一旦休憩しよう」


 俺は柚梪にそう声を掛けると、公園の入り口から公園内を見渡す。平日のお昼頃のおかげか、人は誰一人として居ない、とても静かな公園だった。


 その公園には、滑り台と2人分のブランコが1つ、木製のベンチが2つあるだけの、本当に小さな公園だ。


 俺が公園に入ると、柚梪も後ろからゆっくりとついてくる。木製のベンチに腰を降ろす俺と、隣に座ってくる柚梪。


 キャリーバッグを手元から近い所に置いて、柚梪は膝の上にバッグを置く。


「ふう、少し休憩してから出発しようか。ほんと、この辺バスが通ってないのが痛すぎる」

「寒くなってきたはずなのに………とても暑いです。少しだけ、薄着で来たらよかったと後悔しています………」


 柚梪はそう言うと、バッグの中から黄緑色のタオルを取り出すと、流れ出る汗を拭き取っていく。


 加えて、首元の服を空いた手で掴むと、パタパタと仰いで体を冷やそうとする。


 俺は横から柚梪に視線を向けると、汗が顎まで流れていき、パタパタと服で仰ぐたびに、柚梪の膨らんだ胸が見えたり隠れたりを繰り返す。


 なぜかは知らない。けど、汗をかいた女の子って………なんかちょっとエロい。


 そして俺は、ベンチに座った状態で辺りを見回す。誰も居ない。車も通る気配がない事を確認した俺は、柚梪の方に片手を伸ばす。


「………っ、龍夜さん?」

「ごめん。急に、柚梪が愛しくなって………」


 俺の伸ばした手は、柚梪の背中を通って肩に届き、ぐっと柚梪の身体を俺の近くへと寄せる。


「た、龍夜さん………。その、龍夜さんの方から抱き寄せてくれるのは嬉しいんですが………」

「大丈夫。人は居ないから」

「いえ、そうじゃなくて………。あの、汗かいてるから………///」

「ん? 柚梪の汗なんてご褒美でしょ?」

「もうっ………/// 私は恥ずかしいですし、気になるんですっ」


 そう言ってほのかに顔を赤らめる柚梪。


 確かに、女の子は汗の匂いとか気になるのは分かるけど、俺からすれば………柚梪の汗なんて、砂漠で見つけたオアシスと同じくらいの価値がある。


 そして、俺は決して変態及び変人ではない。


「あぁ~。柚梪成分がチャージされてくぅ~」

「私の成分? なんですか………それ」


 俺はさらに柚梪の肩の上に置いた手に力を入れて、柚梪の身体を最大限まで寄せる。


「………ひゃぁ!?」


 そして俺は、なんの躊躇もなく柚梪の首元に口づけをする。


「………。ちょっとしょっぱいな」

「………っ/// もうっ、龍夜さんのバカっ。感想言わないでくださいっ///」


 そして、人生で始めて柚梪の『照れバカ』を聞く。それを聞いた俺は、より一層柚梪が可愛いく見えるのだった。


 しかし、女の子からしすれば………気にしてる汗を舐められた上、感想を言われるのは確かに迷惑だろう。魔が差したとは言え、しっかりと謝っておくべきだと俺は判断した。


「ごめん。嫌だったよな」

「………。恥ずかしいだけで………嫌って訳じゃ………ないですけど………」


 徐々に声が小さくなる柚梪。最後らへんは聞き取る事が出来なかったが、おそらく嫌がってた事だろう。


 その後、柚梪から手を離した俺は立ち上がると、キャリーバッグをの取っ手を持つ。


「そろそろ行くか。だいぶ休憩出来たし」

「………。私は別の意味で休憩出来てませんけど………」


 そう呟きながらも、柚梪はバッグを持ってベンチから立ち上がる。


 そして、公園から出た俺と柚梪は、俺の実家を目指して再び歩き出すのだった。歩き出した瞬間の俺は、なぜか無意識に顔を赤く染め上げていた。


(おいおいおい、昼間からなにやってんだ俺!? 誰も居なかったから良かったけど、柚梪の首に口づけした上、汗の味の感想言うとか馬鹿だろマジで!?)

 

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