第101話 初めてのうどん
目的の駅へ到着し、改札を通った俺と柚梪。
俺はスマホの電源を入れて、画面に表示された時間を確認する。現在の時刻は午前11時を少し過ぎた頃だった。
「柚梪。少し早いけど、何かお昼を食べて行こうか。こっから結構歩く事になるから」
「はい。分かりました」
「何か希望はある?」
「希望、ですか? いえ、特にはありませんが」
俺は柚梪にお昼ご飯を食べて行く事を提案し、何を食べるかを考えていた。
ここは駅で、出来るだけすぐに食べられる物。コンビニとかでおにぎりでも買って食べればそれでいいんだが、せっかくなら柚梪に食べさせた事のない物がいい。
そうして考えていると、俺はふとあるお店を思いついた。駅によくあって、比較的にすぐ食べられてる料理のお店を。
「じゃあ、うどんにするか」
「うどん………ですか?」
聞き覚えのない料理に、首を横に傾げる柚梪。
うどん………小麦粉に水を加えて練り合わせ、麺に加工した食べ物だ。中に入れる具材などによって、味が変わるのが1つの特徴だ。
一見作るのが大変そうに思える料理だが、こう言った駅など急ぎの人がたくさん来るような場所にあるお店は、元から完成している麺の塊を凍らせて、注文が入り次第解凍する。
スープに関しては、1から作る場所とすでに作ってある場所で異なる。
柚梪と出会ってから結構な時間が経過する。よく考えれば、まだうどんと言った麺類は、パスタ以外に食べさせた事が無かった。
「そう、うどん。簡単に言えば麺類の食べ物。たぶんお店があるはずなんだけど………」
改札から少し進むと、一本道の広い通路に出る。その通路には、コンビニやスーパー、飲食店が並んでいる。
そして、その通路にあるお店の1つに、赤い看板に白の文字で『うどん』とシンプルに書かれたお店を発見する。
「あったあった。あそこだ」
そのお店に向かって歩く俺を、後ろからついて来る柚梪。
うどんのお店の前に立つと、ある機械に目をつける。その機械とは、食券を買うための機械だ。
このお店では、事前に食券を買ってから、その食券を店員さんに提出する形らしい。
食券販売機の隣には、料理のラインナップとして、立体のサンプルが展示されている。そのサンプルを見ながら、何を食べるか決めると言う事だ。
「柚梪、何食べたい? この中から選んで」
「………種類自体は少ないんですね」
駅にある小さな飲食店だからか、種類はそれほど多くはない。駅によってはたくさん種類のある所もあるけれど。
「うーん………食べた事がないので、何がいいのかとか分からないです」
「なら、普通の奴にするか」
柚梪は自分で決められなみたいで、俺はワカメとかまぼこ、ねぎと言った普通のうどん食券を2枚購入。
そしてお店の中へ入ると、まだお昼にしては早いからか、誰もお客さんが居なかった。そして、「いらっしゃいませ」とお出迎えしてくれた女性の店員さんに、購入した食券を渡す。
「お好きな席へどうぞ」と言われた俺は、入り口及び出口から一番近い4人用の席に柚梪と座って、キャリーバッグはテーブルの下に。
店員さんがお冷やを持って来てくれて、俺と柚梪は氷の入ったお水を飲みながら、料理が到着するのを待つ。
それから約10分頃、2杯のうどんを持った女性の店員さんが、俺と柚梪の前にうどんを置く。
「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ」
白くて太い麺、油揚げ、きつね色のスープ、緑のワカメとピンクと白のかまぼこに、ねぎと多少のお肉が盛られたうどんからは漂う香りと湯気は、俺と柚梪のお腹を空かせる。
その香りと初めて目の前にしたうどんに、柚梪は興味を示し始める。
テーブルに設置された箱の中から、割り箸を2本取り出し、俺は片方を柚梪に手渡し、パキッと音を立てながら割り箸を割って、いざ実食。
「いただきます」
「………あ、いただきます」
ちゃんと食事前の挨拶は忘れずにね。
俺は割り箸で麺を3本ほど掴み、2回ほど口で息を吹き掛けて、熱を少し冷ました後、麺をすすった。
麺が太いことで、それなりに噛み応えもあり、口の中には、うどんならではの油揚げの味が染み渡る。
「んん! 久しぶりに食べるうどんは美味しい! ほら、柚梪も早く食べてみ?」
「えっ? あ、はい」
俺のうどんを食べる様子を見ていた柚梪は、空いている左手で、揉み上げを耳に引っかけながら、俺の真似をしつつ、2本の麺を割り箸で掴み、2回息を吹き掛ける。
そして、割り箸で掴んだ麺を口に持っていき、2本の麺をちゅるちゅるとすすっていく。
その子供のような可愛いらしい食べ方をする柚梪に、俺はついつい目を奪われてしまう。
「………。あっ、美味しい」
口をモグモグとさせた後、程よい大きさまで噛み砕いた麺を飲み込んだ柚梪は、ポロッとそう呟いた。
「そうだろ? やっぱりうどんは、普通が定番だな。肉うどんとかも美味しいけど」
うどんの美味しさを知った柚梪は、割り箸で新しい麺を掴んでは、息を吹き掛けて熱を冷ましながら、ちゅるちゅると麺をすする。
その可愛いくて堪らない姿を目に焼き付けながら、俺もうどんを一緒にすする。
そして、俺と柚梪はスープも全て食べ尽くして、大きめの茶碗の中には、何一つ残っていなかった。
「どうだ? 美味しかったか?」
「はい。私、うどん好きかもしれません」
「そうか。気に入って貰えて何よりだ。俺とどっちが好きなんだ?」
「もちろん龍夜さんです」
お客さんが居ないから出来る会話をしながら、店員さん達に見送られつつ、俺と柚梪はお店から出る。
「さて、腹ごしらえも済んだし、家に向かうか。こっから結構歩くからな。柚梪」
「はいっ、頑張ります!」
俺は片手にキャリーバッグを。柚梪は両手でバッグを持って、駅の外へ歩き始め、目指すは………俺が元々住んでいた実家だ。
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