第100話 2人で電車

 翌朝の6時30分。歯を磨き、私服に着替え、昨日準備した荷物を持って、軽く朝食を済ませると、家から俺の実家へと出発する。


 俺の実家は列車を使って、3つの駅を越えた所にある。さらに、駅から徒歩40分くらいで実家に到着する。


 まずは、徒歩30分くらいの場所にある駅を目指して、俺はキャリーバッグを転がせ、柚梪は少しだけ大きめのバックを持って、玄関の鍵を閉めた事を確認の上で歩き始める。


「こんな朝早くからお出掛けなんて、初めてなので少しワクワクします」

「まあ、もう少し遅く出てもよかったんだけど、久しぶりに光太や彩音とゲームして遊びたいからな。それに、列車もそれなりにあるし」


 バックの把手を片手で持ち、空いた手で俺と手を繋いでくる柚梪。


 そのご機嫌そうな顔は、これから遊びに出掛ける子供のように、とても可愛いらしい。


「龍夜さん龍夜さん♪︎」

「なんだよ………?」

「私、将来子供が2人欲しいなって思ってるんです♪︎」

「はぁっ!?」


 突然そう言った柚梪に、俺は思わず大きな声を出してしまった。


 今では全く関係ない話なのに、よりにもよって住宅街の中でそう言うのは勘弁してほしい。まだ2人だけの時とかなら、俺が驚くだけで済むけども。


 だが、幸い人が出てきて覗いてきたりとかはないようだ。


「………はぁ、柚梪、そんな急に子供が欲しいとか、言わないでくれ。別の意味で心臓に悪いから」

「別の意味で………?」


(男性の………アレをね、女性のアソコに入れて………子供を作るんだよ………///)


「………っ!?」


 すると、柚梪は何かを思い出したようで、急に立ち止まって黙り込むと顔を真っ赤に染め上げる。


「柚梪? どうした?」

「ひゃっ!? えっ、あ………なんでもないです………///」

「………? そう?」


 スタスタと早く歩き初めてる柚梪に、俺は手を引っ張られながらついていく。


 やがて駅に到着し、切符売り場に設置されてある機械で改札を通る為の切符を2枚購入し、乗り場へと移動。


「柚梪、この線より内側に居るんだ。危ないぞ」

「はい。分かりました」


 俺は地面にある目の不自由な人の為に設置された、黄色の点字ブロックより内側に居るよう、柚梪に注意を呼び掛ける。


『まもなく、列車が到着します。黄色い点字ブロックの内側に、お下がりください』


 そうアナウンスが鳴ると、右側から黄色の4両の電車が走ってきた。


「うわぁ~………」


 初めて見る電車に、柚梪は好奇心を抱いたようで、電車の全体をよ~く観察し始める。


 プシューと電車から音が鳴ると柚梪はビクッと体を一瞬震わせて驚く。そして、電車の扉が開くと中からたくさんの人が出ていく。


「よし、乗るよ」


 俺は柚梪の手を握って、キャリーバッグを持ち上げ電車の中へと乗車する。


 2人用の椅子に、窓際に柚梪を座らせて、キャリーバッグを上の荷物置きに乗せる。


 電車の中から外の景色を楽しむ柚梪と、電車が動き出すまで暇な俺は、スマホで新しい小説をよ読み始めていた。


 それから約12分ほどが経過すると、アナウンスが掛かって徐々に電車が動き始めた。


 ガタンゴトン………ガタンゴトンと電車はスピードを上げる。電車の走るスピードが早くなった分、柚梪が見ている外の景色は徐々に変わる。


「どうだ? 綺麗だろ?」


 俺は窓から外を眺める柚梪にそう言うと、柚梪は「はい」と少し小さな声でそう言った。


「私の知らないお店や、変わった家がこんなにたくさん並んでいて、すごく目新しいです。なんだか、観光に来たみたいですね」


 俺の住んでいるこの町なんか、地球で言うと微生物以下に小さな広さだ。


 この地球上には、柚梪の知らない場所が山以上にある。なにせ、学校に通っていなかったのだから、もしかすると………この地球や惑星と言った宇宙を知らないだろう。


 いや、難しい事は考えないでおくか。柚梪が興味を持った時に教えてやればいい。


 柚梪が人生を楽しめているなら、それでいいだろう。




 電車に揺すぶられながら、目的の駅に到着するのを待つ俺と柚梪。


 俺はスマホで小説を読んでいると、突然左肩に重みを感じた。何だと視線を俺の左肩に向けると、柚梪が俺の肩の上に頭を乗せて、寄り添ってきていた。


「もう外は見ないのか?」

「はい。十分堪能したので、今度は龍夜さんを堪能しようと思いまして」

「それは嬉しいが、あまり外でそう言う事は言わないでくれよ? 周りに人が居るんだからさ。あと、少しカーテンを下げてくれる?」

「分かりました」


 太陽もだいぶ登ってきて、日差しがスマホの画面に当たって、少し画面が見ずらかった。柚梪が外を眺めていたから、我慢していたけど………これでちゃんと小説が読めそうだ。


 俺の腕を優しく抱き締めて、肩の上に頭を添えてくっついてくる柚梪と、目的の駅につくまで………誰にも見られていない、この甘い雰囲気を楽しむとしよう。


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