第97話 うるさい父親と気まずい2人

「いやぁ! たまには彩音のわがままも聞いてみるもんだなぁ! 龍夜の家で夕飯を食えるとは、父さんは嬉しいぞぉ!」

「はいはい、分かったから。あんまり騒がないでくれ」


 家まで送ってくれた父さんと彩音を家に入れて、4人で夕飯を食べる事になった。


 彩音と柚梪に関しては、2人で2階に行って遊ぶとの事だ。まあ、夕飯まであと2時間くらい時間があるし、俺は洗濯物を畳みつつ、父さんと雑談をしていた。


「それで龍夜。柚梪ちゃんとはいつから付き合ってんだ?」

「うーん、だいたい1~2週間前くらい?」

「なんだ、まだ出来立てホヤホヤじゃねぇか。いいじゃん」

「なんか気持ち悪いな」


 ソファーへ大胆に座る父さん。だけど、確かに父さんの言う通り、俺と柚梪は付き合い始めてまだ間もない。


「けど、なんで父さんが柚梪の事を知ってるんだ? 始めて会ったはずだろ?」

「あぁ、始めて会ったぞ。だが、柚梪ちゃんについては彩音から聞いてたんだ。ねずみ色の髪をした美人さんだってな。んで、たまたま彩音がクラゲを見たいって駄々捏ねるから、水族館へ連れてってやったら、柚梪ちゃんを庇う息子の姿があったって訳だ」


 なるほど、水族館に父さんが来るなんて珍しいと思った。彩音が駄々捏ねたから、俺の家に寄るついでに、仕方なく連れて行ったら、俺達と遭遇したって事か。


 偶然にも程があるだろ。むしろ奇跡だろ。


「だが、たまには彩音のわがままを聞いてやるもんだな。おかけで、危ない息子を助ける事が出来たからな」

「俺が問題児みたいな言い方止めてくんね?」

「ガッハッハッハ。お前も相変わらずだな! 父さんは安心したぞ!」


 高笑いをする父さんに、俺は少々迷惑を感じながらも、洗濯物を畳む手を止めなかった。


 やがて、洗濯物を片付け終わると、俺はゆっくりと夕飯の支度をし始める。


「ちょっと早い時間の夕飯になりそうだけど、帰る時間とか考えれば、ちょうどいいか」

「おう。父さんも帰ったら、愛する妻との時間を過ごさねばならん」


 そうして俺は、冷蔵庫から野菜や肉などを取り出し、少しずつ調理を始める準備に取り掛かる。


 一方その頃、2階に居る柚梪と彩音はと言うと………




「それでそれで? お兄ちゃんとはどんな感じ?」

「お、落ち着いて彩音ちゃん………私だって、話すの恥ずかしんだから………」


 彩音は、付き合い始めた俺と柚梪の関係にとても興味津々だった。


「龍夜さんはすごく優しいし、恋人関係になってから、なんて言うのかな………いつもより、龍夜さんの温もりが落ち着くと言うか、安心すると言うか」

「いいなぁいいなぁ。私もお兄ちゃんの恋人になりたいよぉ!」

「それはちょっと………無理があるんじゃないかな? 血の繋がっている兄妹は、そう言った関係になれないって聞いたよ?」


 俺の部屋で恋話を堪能する2人。


 確かに、血の繋がっている兄妹は、親しい関係になれなくはないが、結婚をする事が出来ない。


「関係ないよ! 結婚出来ないなら、夫婦以上の関係を作ればいいだけだよ!」

「夫婦以上の………関係?」


 もう何を言ってるのか分からん。


 夫婦以上の関係となれば、結婚以上の式が存在する事になる。そんな式なんぞ、見たことも聞いた事もない。


「そう、夫婦じゃなくても………その気があれば子供は作れるんだよ」

「………っ!? 子供………」


 そして柚梪の脳内には、ある事を思い出した。


「ねぇ、彩音ちゃん。そう言えば………子供のなんか、出来ないやつって………」

「へ?」

 

 その言葉に、彩音は一瞬首を横に傾げるが、すぐに柚梪の言ってる意味を理解する。


「あぁ………あれの事ね。うん、一応買ってはいるけど、持ってくるの忘れちゃった………」

「………そ、そうですか」


 そして、ワイワイと楽しい雰囲気から、何かと気まずい雰囲気へ一変するのが、柚梪も彩音もその身で感じ取っていた。


「いやぁ………あれを買う時、すごく恥ずかしかったなぁ………。店員さんの前で、顔が真っ赤になっちゃったもん」

「………なんか、ごめんね」


 この気まずい雰囲気を変えようと、彩音が少し楽しげにそう言ったが、顔は嘘をついていない。赤いままではないか。


 柚梪は、彩音に恥をかかせるような事をさせてしまってたのだと自覚したのか、彩音に対して謝罪の言葉を口にした。


「もう、買いに行きたくないかも………」


 それから、しばらくの間沈黙が続いた。


 刻々と時間が過ぎる中、柚梪も彩音も何を言えばいいのか分からなくなっていた。かといって、部屋から出ていく事も、何故か気が引ける。


「きょ、今日の夜ご飯………何かなぁ?」

「と、どうだろうね………」


 勇気を出して彩音が話題を作り出すが、10秒も満たない内に会話は終了。


 そして彩音は、床から立ち上がると、扉の方に向かって歩き出す。


「ちょっと、お手洗い行ってくるね」

「うん………」


 扉のドアノブを握って、彩音が部屋を出ようとする。しかし、彩音は部屋から出て行かず、その場で足を止めていた。


「その、例の物は………明後日渡すね」


 彩音はそう言った後、部屋から出ていき、俺の部屋には柚梪が1人………ポツンと残されていた。

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