第96話 父さん襲来

「父さん………!?」


 柚梪を庇う俺の胸元の服を掴む男の背後に、異様なほどの殺気を放つ人物。筋肉質のがたいが良いその男性は、人じゃないような鋭い眼差しを向け、男3人を見下す。


 その人物こそ、俺の実の父親………如月優豪きさらぎゆうごうだ。


 空気が歪むのをこの体が自然と感じている。柚梪もそうだし、周りにいる人達も動けないほど威圧。


「な………なんだよ………やんのか………?」


 男3人に比べて、身長が高く体がそれなりに大きい。ムッキムキってわけじゃないけど、服の上からでも筋肉があると言う事は、誰でも分かる。


「なんだ? やるんじゃぁねぇのか? さっさと来いよ。軽く捻ってから警察連れてってやるからよ」

「………ひぃ!?」


 父さんは肩に置いた手を離すと、両手で指の骨を鳴らす。


 一歩………また一歩と近づいて行く父さんに、3人の男達は威圧感に負けて、後退りを始める。


「………ダメだ!? お前ら、逃げるぞ!?」


 やがて、ある程度攻撃態勢はとっていたものの、奴ら勝てる気がしなかったのか、尻尾を撒いて逃げて行ったのだ。


「ふう………助かった。柚梪、怪我は?」

「はい………大丈夫ですけど………」


 柚梪は、逃げていく3人の男達を見えなくなるまで見続ける父さんの姿を、チラッとだけ見る。


「よし。もう大丈夫だろ。久しぶりだなぁ! 龍夜! 元気そうでなによりだ」


 父さんは何事もなかったかのように、俺に歩み寄っては喜びの表情を浮かべる。


「俺の方こそ、久しぶりだな。父さん。てか、なんでここにいんの?」


 俺がそう質問をすると、父さんの背後からある女性が、ピョンとウサギみたいに跳び跳ねて姿を現した。


「お兄ちゃん! 柚梪ちゃん! やっほー!」

「彩音!?」


 聞きなれた声に、紫髪のツインテール、赤紫の瞳をした女性は、俺の妹………如月彩音だった。


「実はなぁ、社長から少し働き過ぎだって叱られてよぉ」

「働き過ぎで叱られてる? どういことだよ」


 父さんは造船会社で働いているのだが、家からかなり離れているため、父さんは俺達家族と別々で生活してるんだ。


 母さんからの話によれば、父さんは同じ会社で働く人達から、とても尊敬・信頼されている存在なんだとか。


 物事の把握が早い父さんは、様々な事で会社に貢献している。最近では、作業員に指示を出したりする役割もこなしているだとか。


「俺は全然働けるんだがなぁ、ここ10ヶ月近く家に帰って来てないし、社長が………たまには家族で旅行でも行って、体を休めて来いとの事でな」


 そして、父さんは俺にあるチケットをポケットから取り出して見せてくる。


「ちょうど、今日の夕方くらいに龍夜の家に寄って行こうと思ってたんだ。ちょうどいい」


 それは、とても高そうな和風の旅館に無料で泊まれる招待状のようだった。


 父さんの働いている造船会社の社長さんは、友人にこのチケットに映っている旅館を経営している人がいるのだとか。


 2泊3日の食事付き………俺は僅かに心の中で楽しみな感情を爆発させていた。


「そんで、そっち嬢ちゃんが柚梪ちゃんかな?」

「え? はい………えっと、間宮寺真矢と言います。今は、柚梪と言う名前を使っています」


 丁寧な言葉で自己紹介をする柚梪。その姿に、父さんは感心を抱いた。


「さすがは、元お嬢様だ。礼儀がちゃんとなっている。俺は如月優豪だ。龍夜の父親と思ってくれればいい」

「はい。えっと、優豪さん。それから、彩音ちゃん久しぶり」

「うん! 久しぶりだね柚梪ちゃん! なんだか少し大人っぽくなった?」


 柚梪の両手を握りながら、跳び跳ねて再開を喜ぶ彩音。今日も今日とて元気がよろしいことだ。


「あのね、彩音ちゃん。私、龍夜さんとお付き合いしてるんだ」


 するの、柚梪が彩音に対して突然の告白をする。それを聞いた彩音と父さんは、少し沈黙をする。


「えぇーーー!? 本当!? おめでとう!! ようやくなんだね柚梪ちゃん!!!」

「彩音………! 声が大きいわバカ野郎!」

「くぅぅぅっ、龍夜に彼女が………俺は父親として嬉しいぞぉ! 龍夜ァ!」

「父さんはここで泣くんじゃねぇよ!」


 周囲から大量の視線を浴びる俺達。その視線に耐えきれず、俺は柚梪・彩音・父さんを連れて、出口まで直行してったのだった。




 やがて、時刻は15時を回ろうとしていた。


 父さんの乗って来た7人乗りの縦長な車の中に乗り、旅行についての話を聞いていた。


「と言う事だ。俺は来週の月曜日まで休暇を貰っている。旅行は水曜日から、木・金で旅館に泊まって、土曜日は家で過ごして、日曜日に帰る」

「要するに、俺と柚梪は火曜日………つまり、明後日に母さんの所へ行けばいいんだな」

「そうだ」


 あらかたの予定が決まり、父さんは車のエンジンを起動させる。


「もう行く所はないんだろ? なら、家まで送ってやるよ」

「ありがとな父さん。助かる」


 そして、父さんは車を走らせると、俺と柚梪を家まで送くり始めた。


 なんだか少し短いデートだった感じはするが、柚梪は俺の隣で眠っている。よほど疲れたのか………それとも楽しみ過ぎたのか。


 明後日か………何かと準備が忙しくなりそうだが、何年ぶりかの家族全員と恋人の柚梪でお出かけ………しかも旅館に泊まりに行くとは。


 明後日が待ち遠しいな………。

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