第95話 水族館デート………?
薄暗い階段を登り終えたその先には、巨大な水槽の中で優雅に泳ぐ魚達や海の生物が展示されていた。
広いその空間には、30個近くの水槽に、数え切れないほどの種類の生き物が泳いでいる。
ここは1つ目のエリア。主に魚やクラゲと言った一般的な生き物が見れる場所だ。
「うわぁ………綺麗………」
暗いその空間を、水槽の青白いほのかな光が照らし、常に心が落ち着く雰囲気を作り出している。
その雰囲気と光景に、目を奪われる柚梪。
「私の知らない場所には………こんなにも綺麗で落ち着く所があったんですね」
「そうだな。それに、ここよりも………もっとすごい場所なんていくらでもある。実際には連れてってやれない所が多いけど、見ることなら出来るからな」
この地球には、有名な人工物はいくらでもある。だが、やっぱり自然に出来た所が一番魅力的だよな。
最も高い山、巨大な洞窟、地中に埋まる宝石。柚梪を連れてってやりたい所は山ほどあるけど、俺の力では到底及ばない場所がほとんどだ。
その場で立ち止まって、広い水族館の空間をひたすら見渡す柚梪。
このままでは、1日経過しても動きそうにない。俺は、少々強引だが、柚梪の握った手を優しく引き、大量に設置された水槽の中を見て回ることに。
1つ1つの水槽に、種類の異なる魚がなん十匹と泳いでいる姿を眺める柚梪。
さっきから落ち着かないのか、ずっとバックを持っている手を胸に当てている。
だが、水槽を眺める柚梪の目は、まるで何かに憧れているような………そんな目をしていた。
「………、このフワフワと泳いでいる生き物は………何ですか?」
「これはクラゲだな」
壁に設置された小さな水槽の中を泳ぐクラゲの存在に気がついた柚梪は、しゃがみながらとても興味津々に眺める。
傘には四葉のクローバーの形をした模様が発光しており、一定のテンポで傘を動かし、登ったり沈んだりしている。
他にも何種類かのクラゲが泳いでいる水槽はあるのだが、なぜか柚梪は………一般的によく見るクラゲに興味を示す。
なんだか、柚梪が子供に戻ったみたいだ。もし、柚梪がまだ痩せ細っていた時期に、こう言ったクラゲでも見せてあげれば、違った反応を見れたのかもしれない。
そうして一通りその空間にある水槽を眺め終わると、俺と柚梪は次のエリアへと向かった。
2つ目のエリアは、通路自体が水槽になっている所だ。
床、壁、天井全てが透けており、小魚の群れや、エイ、イカにタコと言った、飼育された生き物達が優雅に泳いでいる。
四方八方が水槽なため、床を見ればタコが移動してたり、横見れば大きなエイが横切っていたり、上を見れば、小魚の群れが円を描きながら泳いでいたりと、違った目線から生き物を観察出来る場所だ。
柚梪も、声が出ないほどにまで感動している。さっきから視線が、あっちを行ったりこっちに行ったりと、忙しくしている。
ただ、ここは水族館の中でも人気の場所なせいか、人がとても多い。少しはぐれる可能性があるため、柚梪には申し訳ないが、ゆっくりと進みながら見てもらうとしよう。
本当なら、少し足を止めてじっくりと観察させてやりたい所だが、許してもらいたい。
ちょっと早いが、最終エリアの3つ目は、亀やカニなどの甲殻類や、イルカ・ペンギン・大型生物などがいる場所だ。
「あっ! 可愛い♡」
そして柚梪が一番最初に目をつけたのが、よちよち歩きをするペンギン。
「龍夜さん龍夜さん! この動物可愛いです♡」
「ペンギンだな。確かに、女性から人気な動物ではありそうだ」
まあ、実際の所は知らないけども。
柚梪が一番近くのペンギンを、しゃがみ込んで眺めていると、そのペンギンは柚梪の存在に気がつき、よちよちと歩き寄ってくる。
そして、透明なガラス越しに、柚梪とペンギンが見つめ合い、柚梪が首を少し横に捻ると、そのペンギンも合わせて首を動かしてくる。
「すごい………! 私の動きに合わせて、ペンギンちゃんも動いてくれる! 可愛い♡」
いや、正直に言うと………柚梪の方が何倍も可愛いぞ。
俺は柚梪の後ろで腰に手を当てながら、その様子を眺めていた。
さっきまで声が出ないほどまで見入ってたのに、ペンギンを見たとたんいつもの柚梪に戻ったな。もしや、ペンギンには人の心を動かす力があるのだろうか?
いや、現に今柚梪がそうか………。
その後、柚梪はペンギンに手を振って別れを示すと、俺の元へ帰ってくる。
「もういいのか? もっと見ていていいのに」
「柚梪は、龍夜さんとこうしてくっついてもいたので」
俺の腕に抱きついてくる柚梪。
少し周りの視線が痛いから、あまりくっつかないで欲しいが、柚梪を振り払う事など、俺に出来るはずがない………。
結局、そのまま残りの水槽をみて回る事に。
だいたい1時間過ぎくらい柚梪と水族館を楽しみ、出口のあるショップコーナーへ到着。
少し覗けば、柚梪がクラゲのキーホルダーを欲しそうに眺めていたから、速攻で買ってあげた。
「柚梪、ちょっとお手洗い行ってくるから、少し待っててくれ」
「はい。分かりました」
そして、俺はトイレへ向かっていく。
やがて、俺がトイレから戻ると、柚梪は知らない男性3人に囲まれていた。何事だ………?
「君さ、めちゃくちゃ可愛いじゃん。よかったらさ、俺達とカラオケ行かね? 全部奢るからさ」
「………っ、い………嫌です。私は、ある人と一緒に………」
「いいじゃんいいじゃん。気にするなって、別に何もしないからさぁ」
なんだよ………明らかに不良らしき男どもじゃねぇか! しかもあろうことか、ど真ん中にいる男………柚梪の肩に触れてやがる………!
俺は、頭で考えるよりも先に体が動いた。
男の間を素早く通り抜け、柚梪の前に立ち、大切な人を庇う。
「どちら様が知りませんが、彼女に手出ししないでもらいたい」
「龍夜さん………」
「あぁ? なんだテメェ? この女の子の連れかぁ?」
男3人は、俺に鋭い眼差しを向けてくる。だが、そんな事で負けるはずがない。俺は今、世界で最も大切な人を庇ってるんだ。
「どけよ! 邪魔なんだよ!」
「くっ………!?」
俺は、ど真ん中にいるリーダーらしき男から胸元の服を強引に掴まれ、引っ張られる。
だが次の瞬間、奴ら3人の背後………特に、俺の服を掴んでいる男の後ろから、尋常じゃない殺気を放つ、1人の男性がその男の肩に、優しく手を乗せる………
「おい兄ちゃんら………俺の息子に、何してくれてんだ?」
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