第93話 猫耳柚梪、再び爆誕
「………」
頭につけるある物を両手に持ち、必死にある物とにらめっこをする柚梪。
「(これをつければ、きっと龍夜さんは振り向いてくれる………けど、ここはお店の中だし………店員さんもいる………どうしよう)」
つけるべきか………それともつけないでおくべきか。柚梪の脳内では、つける派とつけない派でチビ柚梪軍団が戦争を撒き散らす。
そして、カウンターで個人作業をしていた受付の店員さんが、ある物を持って立ち尽くしてしている柚梪に視線を向ける。
「お客様、どうかされましたでしょうか?」
「ふぇ!? あ、いえ………なんでもないです」
突然の呼び掛けに、思わず声が裏返ってしまう柚梪。
「いいですよ。そのカゴの中に入っている物は、ご自由に使っていただいても」
その言葉に、柚梪は「はい………」と小さく呟くと同時に、顔がほのかに熱くなるのを感じた。
よく見ると、カゴには『ご自由にお使いください』と書かれた貼り紙が貼っていた。
カゴの中に入っているのは、犬や猫と遊ぶおもちゃがほどんど。しかし、その中には犬及び猫の耳をしたカチューシャも入っていた。理由は知らないが。
そして、柚梪が両手に持っていたのは………紛れもない猫耳カチューシャだ。
猫が大好きな俺は、今現在柚梪の事を忘れるくらい猫ちゃん達に夢中だ。そんな俺の前で、柚梪が猫耳をつければ、間違いなく柚梪に気づくだろうし、俺の目が飛び出る可能性だってある。もちろん、良い意味でな。
「………よしっ!」
そして柚梪は、ついに決断を下した………っ!!
「龍夜さん」
「あぁ………猫がこんなにもたくさん………幸せだぁ」
柚梪は片手に猫耳カチューシャを持って、俺の前に立ちつつ、名前を呼んでみるが、意識は猫に行ったままだ。
やっぱりダメだと確信した柚梪は、店員さんがカウンターに居るにも関わらず、勇気を振り絞って猫耳カチューシャを頭に装備する!
そして、俺の左隣へ移動すると、俺の腕をギュッと抱きしめ、最大限まで身体を寄せる。
今の柚梪は、心の中にある羞恥心を全て破壊し、猫に負けまいと甘えてくるのだ。
「龍夜さん………」
「猫がたくさん………って、柚梪!? 急にどうし………っ!? それは………猫耳!?」
そして、ようやく俺は猫ランドから意識を取り戻し、ベッタリとくっついてくる柚梪に顔を赤く染め上げる。
猫耳カチューシャを装備した美女が、腕を胸に押し当て、超至近距離で見つめてくる………! この地点で、俺の理性75%が崩壊していた。
「龍夜さん………ひどいですよ」
「………え?」
だが、柚梪のその言葉を聞いたとたん、バクバク鼓動を鳴らしていた俺の心臓は、無意識に落ち着いていた。
「私、ずっと声をかけてたのに、無視するなんて………ひどいです」
少しシュンとした顔になる柚梪。
さっきまであんなにドキドキバクバクしていた俺の心は、なんだか申し訳なさでいっぱいになっていた。
猫ランドに夢中だった俺には、本当に柚梪の声が聞こえていなかった。けど、柚梪が嘘をついているような表情でも話し方でもない。
「えっと………なんか、ごめんな」
「………」
肩に頭を寄せてくる柚梪に、俺は空いている右手で優しく柚梪の頭を撫でる。
どうやら俺は、気づいていない内に、柚梪を1人おいてけぼりにしていたようだ。今日は柚梪とのデート日なのに、情けない………。
「もっと………」
「分かったから………そんなに、くっつかないでくれ………」
「とても仲の深いカップルですね」
「えぇ、そうね」
カウンター越しに俺と柚梪のやり取りを見守る2人の店員さん。俺と柚梪は、2人の店員さんに見られている事を知らずに、存分にイチャついてしまっていた。
やがて、利用時間の30分が過ぎ、荷物を持ってお店を出ようとしている時だった。
「お忘れ物はございませんか?」
「はい。大丈夫です」
店員さんと最終チェックを済ませた俺と柚梪は、店員さんに見送られながら、その場を去った。
「うん。犬や鳥も可愛いけど、やっぱり柚梪が1番だよな」
「当たり前ですっ! 柚梪は龍夜さんの中で常に1番じゃないと気が済みません」
まだ少し拗ねているご様子の柚梪。だが、ペットショップに入る前までは手を繋いでいたのだが、今では腕を組んでいる状態。
柚梪の機嫌を直しつつ、この初デートを思い出深いものにしなければ。
さて、お昼ご飯を食べ終わり次第、次の目的地は………水族館だ。
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