第92話 触れ合い動物ショップ

 さぁ、やって来たぞ。


 今目の前にある建造物には、猫や犬や鳥といった動物の大きな写真が飾られている、触れ合い動物店と書かれたお店だ。


 このデートで最も俺が楽しみにしていた場所。それがこの、通称触れ合いペットショップだ!


 名前から分かる通り、ここはペットショップなのだが、実際に動物達と触れ合うことが出来る。そして、愛着の湧いた動物を、ペットとして家に迎え入れる。


 もちろん、触れ合ったからどれかの動物を買って行け、と言うわけじゃない。触れ合うだけでも大丈夫な、良心的なお店だ。


「なるほど、ここは動物達と触れ合うことが出来るんですね」

「え? そうだが、俺何も言ってないよな?」


 おかしいな。俺は柚梪に、このペットショップでは動物と実際に触れ合えると言っていないはずだが。


 まあいい。とにかく俺は、大好きな猫をモフモフしたいのだ。


 そうして俺は、「さぁ行くぞ。時間が勿体ない!」と言いながら、柚梪の手を引っ張りつつ店内へと入って行く。




 入り口及び出口は、自動扉と手動扉の2重になっていた。さらに、2つの扉の間には店員さんが1人立っている。


「いらっしゃいませ」


 男性の店員さんは、一礼をすると俺と柚梪をそのまま見送る。


 万が一動物が逃げ出した時の捕まえる係なのだろうか? まあ、外に繋がる扉は手動だがら、タイミング良く手動と自動の扉が同時に開かない限りは、脱走などないだろう。


 そして店内へと入ると、すでに店内には猫、犬、鳥達が放たれていた。


 カウンターの上でくつろぐ猫や、お客さんをお出迎えしてくれる犬、部屋中を飛び回る鳥。種類はどうやら3種類だけのようだが、数がそれなりに多い。


「わぁ~すごい……動物がたくさん……わっ!?」


 柚梪がたくさんいる動物達に驚いていると、緑の体をしたスズメのような小さな鳥が、柚梪の肩の上へと乗ってきた。


 さらに、3匹の犬が入店してきた俺と柚梪をお出迎えしに、目の前まで歩いて来ては座る。


「すげぇ……ちゃんと教育されてんなぁ」


 俺も柚梪も、積極的で人慣れしている動物達に感心を抱く。


 靴を脱いで、用意されているスリッパを履くと、俺達はカウンターへと向かう。


「いらっしゃいませ。ご観覧なれに来られましたか?」

「まあ、そうですね」

「かしこまりました。では、こちらをお読みの上でごゆっくりお楽しみください」


 そうして、俺はカウンターにいる女性の店員さんから、ある貼り紙に目を通すよう指示される。


 俺と柚梪はその貼り紙に書かれている内容に目を通した。


 その貼り紙に書かれている内容とは、注意書きのようなものだった。食事は禁止しているが、飲料に関しては問題ない。それから、触れ合い30分だけは無料で楽しめるが、それ以降30分延長するには800円が発生するとのことだ。


 現在時刻は11時20分頃。お昼も食べないといけないし、30分の無料タイムだけで十分だろう。


「いかがなされますか?」

「30分の無料時間だけでお願いします」


 俺がそう言うと、女性の店員さんは「かしこまりました」と言って、タイマーを取り出し、同時に1番と書かれたプラスチックのネームタグを貰う。


「では、時間になりましたら、そのタグに書かれている番号でお客様をお呼びいたします」

「分かりました」


 そして、タイマーが起動される。


 店員さんに「どうぞごゆっくり」と言われた俺と柚梪は、お店の奥や中央に集まる動物達と触れ合いに行く。


 お店の中央には、丸いキノコのような大きなテーブルと、小さい椅子が4つあり、壁沿いにはキャットタワーが複数と、天井には木の長い棒が一定の感覚で吊るされている。


 俺達意外のお客さんはいないようで、ほぼ全ての動物達か、俺と柚梪の周りに集まり始める。


「おぉ~! 猫がこんなにもたくさん! よしよ~し可愛いなぁお前達~」


 俺は4~5匹の猫に囲まれながら、必死になってモフモフを堪能する。一方柚梪は、鳥に気に入られているようで、すでに両肩には緑と薄い青色の鳥が乗っている上、柚梪が腕を差し出すと、2匹ほどの鳥が飛び乗っている。


 犬達に関しては、俺達の近くでくつろぎながら、動物と触れ合う俺達の姿を眺めている。


 俺が椅子から床に座ると、撫でられてご機嫌な黒い斑点のついた白猫が、俺の膝の上に乗ってきて、ゴロゴロと言わせながら寝転んでくる。


「くぅ~! たまんねぇ~! これだから猫は可愛いんだよなぁ!」


 俺は、柚梪とのデートだと言う事を忘れて、ひたすら猫をモフモフする事に意識がいってしまっていた。


 柚梪は俺の後ろで、キノコ型の椅子に座って鳥達と戯れている。


「龍夜さん。見てください! 私、どうやら鳥に好かれいるみたいです! 腕には6匹の鳥が……」

「ほ~らモフモフ~! お? なんだ? お前もモフモフされたいのか? よ~し、ほらモフモフ~」


 俺は柚梪に話かけられていることすら気づかず、猫をモフモフするのに必死だった。


「龍夜さん? 龍夜さーん……!」


 いくら俺の名前を呼んでも、全く反応しない如月龍夜。


 そして柚梪は、今だけだとは言えど……自分の事を忘れられていると言う事に、少し暗く寂しい顔になってしまう。


 すると、最初に柚梪の肩へと乗った緑の鳥が、少し離れた場所へと飛び立つと、ある物が入った白いカゴの近くに飛び降りる。


 急に鳥が飛び立った事に少し驚いた柚梪は、その緑の鳥が降り立った所に目を向けると、その白いカゴに入ったある物に目をつけた。


「………あれは」


 それを見た柚梪は、椅子から立ち上がり、そのある物が入っているカゴの置かれた棚へと移動し、カゴからそれを取り出し手に持つ。


 柚梪が手に持って眺めてるある物とは………何かだった………

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