第85話 気温低下による影響

 ひゅ~っと窓から風の通る音に、足元から感じた寒気によって、俺は眠りから覚醒していた。


「うっ……なんか冷える……今何時だ……?」


 枕元に置いてあるスマホを手に取り、充電器を外すと電源を入れる。パッ明るくなる画面に目を細めながら、ロック画面に表示さらた時計を確認する。


 朝の4時前……どうりでまだ外が若干暗いわけだ。季節も10月の秋に入り、本格的寒くなってくるとは思っていたが、こんなにも早く冷えてくるとは。


「ダメだ……ちょっと寒い。なんか上に着るか……」


 俺は隣で寝ている柚梪を起こさないよう、出来るだけ音を立てずスマホのライトで自室のタンスを照らす。


 タンスの中から、冬用の分厚い上着を取り出し、寝巻きの上から着る。なんだかんだで目が覚めてしまった俺は、柚梪に肩から足元まで薄い毛布をかけてあげた後、一階へと降りて行く。




 リビングへとやって来ると、思った通り冷えている。階段を降りただけでも寒気を感じるほどだ。


 リビングの電気をつけて、エアコンを暖房に設定。体を暖めるために、俺はホットココアを作りにキッチンへと向かう。


「……ふぅ、それにしても、急に寒くなってきたな。柚梪……薄着だけど大丈夫かな? 柚梪の冬服を出しとかねぇと」


 冷たくなったソファーに腰掛け、暖かいココアを飲みながら、俺はのんびりとした時間を過ごしていた。




 朝の8時頃。あれから体を暖めてから柚梪の冬服を用意して、リビングも上着を着なくても暖まった。本当なら、朝食を済ませている所なんだが、珍しく柚梪が2階から降りて来ない。


 すでに太陽も登り始めているのに、寝坊とは……昨日はいつもより早く寝たはずなんだが……


 俺は柚梪を起こすため、2階の自室へと向かう


 ガチャっと扉を開くと、「柚梪ー」と言いながら俺は部屋に入った。そこには、いまだに毛布を被って寝る柚梪の姿がある。


「柚梪、もう8時だぞ? そろそろ起きねぇと」

「……んあ? あ、龍夜しゃん……おあよう……ございましす……」


 俺の声に目を覚ます柚梪だが、少し息が荒く、なにせ顔が赤い。異変を感じた俺は、柚梪のおでこに手を当てると、火傷しそうなほどに熱かった。


「柚梪、熱があるじゃないか……! 大丈夫か……?」

「はぁ……なんか、急に体が寒くなってきたと……思ったら、頭が……ボーっとするんです……」

「急な気温変化で体調を崩しちまったか。とりあえず体温計と、何か胃に優しい料理持ってくるから、少し待ってろ」


 俺はすぐに一階へ降りて、体温計をテーブルの上に置いて、簡単に作れる軽い料理を作る。


 数十分後、ポケットに体温計を入れて、作ったほかほかお粥と氷水運ぶ。ついでにマスクも装着。


「柚梪、おまたせ。お粥作って来たから」


 もう使っていないが、勉強机にお粥を一旦置いて、柚梪に体温計を手渡す。電源をつけて柚梪の服についているボタンを上から3つほど外し、脇に体温計を挟ませる。


 しばらくすると、体温計がピピピッ……ピピピッ……音を鳴らす。


「38.8度……結構高熱だな。柚梪、体を起こせるか?」

「はい……」


 ゆっくりと柚梪の体を起こし、座らせる状態にすると、俺は持って来たお粥の入ったお皿を手に持ち、ベットに腰を降ろす。


 スプーンでお粥をすくって、柚梪の口に持っていく。


「柚梪、食べれるか?」

「……はむっ、少し熱いですけど……食べられます」

「そうか。ならよかった」


 柚梪はスプーンに乗ったお粥を口に入れ、俺は柚梪の口からスプーンをゆっくりと引き抜く。もぐもぐと口の中でお粥を噛んで、細かくした後飲み込む。


 お粥を飲み込んだら、柚梪がまだ欲しいと言わんばかりに、小さく口を開いてくる。それを見たら、俺は再びお粥をすくって柚梪の口の中へと入れるを繰り返す。


 やがて、柚梪はちゃんと作ったお粥を全部食べてくれた。少なめに作ったとは言えど、しっかりと食べてくれるだけで少しホッとする。正直な所、お粥を作ったことが無かったから、柚梪の口に合うか心配だった。


 柚梪に氷水の入ったコップを手渡すと、柚梪は水をゆっくりと飲み始める。


「冷たくておいしい……」

「そりゃよかった。寒くないか?」

「いえ……ちょっとだけ寒いかもです」

「そうか、なら暖房つけるか」


 部屋のエアコンに暖房を設定すると、少し時間が経過した後、暖かい風が部屋の中を駆け巡る。


「じゃあ、ゆっくり休んでいるだぞ。今日はバイト休みだから、定期的に様子見に来るから。何かあったら電話かけて」


 俺はそう言うと、ベットから立ち上がる。しかし、ベットに座っている柚梪が、俺の背中の服を掴んで離そうとしない。


「やだぁ……行かないでぇ……」

「え? でも……」

「さびしいよぉ……」


 涙目になる柚梪。熱のせいで脳が少し機能が低下してるのか知らないが、そんな本当に寂しそうな目で見られると、一階に降りれないな……


 だが、まだ俺は朝食も取ってないからな……


「柚梪……そんな目で見ないでくれよ。俺、まだ何も食べてないんだ。すぐに戻ってくるから……ね?」

「……ホント?」

「本当だよ。約束する。ご飯食べたらすぐ戻ってくる」

「……わかった」

「ありがとう。えらいえらい」


 柚梪の頭を何度か撫でた後、俺は自室から出る。


 こりゃ早く戻ってやらねぇと、もっと柚梪が寂しがっちまうな。朝は、パン焼くだけでいいか。あと、熱冷ましシートも持って行くとしよう。


 

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