第4章 恋人関係の幕開け

第81話 恋人が可愛い過ぎる件

 夜21時頃のこと。


 遊園地で遊びまくったせいか、それなりに疲労が溜まっているなか、晴れて恋人関係へとなった俺の彼女……柚梪との甘い時間を過ごす。


「柚梪……、そんなに引っ付かないでくれ。いつもより増して恥ずかしいんだけど?」

「嫌です。私は龍夜さんから24時間離れません。離れたくありません。だから諦めて、もっと私に甘えられてください」

「甘えさせてください……じゃなくて?」

「甘えさせてください」

「よろしい」

「えへへ……/// やったぁ」


 なんだ急に可愛い声を出しやがって。耳が幸せだろうが。あと、24時間くっつくのは勘弁してほしいな……それに、なんともわざとらしく胸を腕に押し当ててくるし、理性ブレイカーにも程があるだろ。


 今日のお昼までは、仲の深い他人同士だった。恋人と言う関係になってから、柚梪を見ると言う仕草にすらも、僅かな恥ずかしさを覚えていた。


 さらには、このように俺の理性を削ってくるような甘え方をしてくるし。


「龍夜さん!」

「な、なんだよ……そんなに目をキラキラさせて」

「私の事、好き?」

「……!? 急にどうした……? 恋人なんだから、分かるだろ」

「言って欲しいんです! どうなんですか?」

「……っ」


 天使のような顔で見つめられ、質問の答えをぐいぐいと迫られる。恥ずかしさのあまり、頬を赤くすると、柚梪から視線を逸らす。


「す、好きだよ……」


 照れくさそうに左手で口元を隠しながら、柚梪に聞こえるくらいの小さい声でそう言う。


 すると、柚梪はニコッと微笑むと、俺の胸元に飛び込んでくる。


「私も好きですよ♡」

「……たくっ、なんなんだよ」


 俺の胸に耳を当ててくる柚梪は、俺の心臓音を聞く。無意識に俺は、柚梪のさらっとしたねずみ色の髪の上に手を置いていた。そのまま、ゆっくりと撫でる。


「龍夜さん。鼓動が早いですよ? 緊張してるんですか?」

「そりゃ……可愛い女の子に抱きつかれて、心臓の音を聞かれると、恥ずかしいし緊張するだろ」


 煽ってくる上に、俺だけ恥ずかしい思いをしていることに、少々不満を抱いていた。柚梪にも少し、恥ずかしい思いをしてもらわなければ、不動秒だ。


「くそっ、ほら柚梪。甘えてきたお返しだ」


 そう言って、俺は柚梪の体を持ち上げ、膝の上に座らせると、柚梪の可愛いらしい綺麗な耳に、パクりと口で甘噛みをすると、柚梪は『ひゃぅ……』と甘い声を出す。


「た、龍夜さん……私、耳弱いんです……」

「知ってる。だから優しく噛んでる」

「ひゃぁ……///」

「柚梪、可愛い」

「うぅ……耳元で囁かないでくださいよ……」


 柚梪の温もりを感じつつ、耳を甘噛みしては舐めてを繰り返す。そのたび、俺の耳付近から聞こえる柚梪の甘い声が、男の本能を震わせる。


 柚梪の体を、さらに強く抱きしめ体を密着させることで、柚梪の背中越しから僅かに心臓の鼓動が伝わってくる。


「ふふっ、どうしたんだ? 心臓の鼓動が早いみたいだけど?」

「いっ、言わないでください……///」

「か~わいっ」

「イジワルぅ……」


 柚梪の耳から口を離すと、細い唾液の糸が線を引くと同時に、息切れ気味の柚梪が、ばたりと俺の体に倒れてきた。


 ふむ……少しやり過ぎたかな?


 柚梪の甘い声を聞いていると、ついつい興が乗ってしまった。本当なら、もっと聞いていたい所だが。


 存分にイチャついた後は、寝る準備を整える。息を整えた柚梪と洗面台へ向かえば、柚梪は片手で歯を磨きつつ、もう片手を俺の腕と絡ませる。


「柚梪、歯磨きしずらいんですけど」

「知りません。イジワルする人は嫌いです」

「俺、さっきまでイジワルしてたんだけど?」

「龍夜さんは大好きです」

「イジワルする人は嫌いなんでしょ?」

「イジワルする龍夜さんは大好きです」


 とまあ、訳の分からない会話をしながら、歯磨きをささっと終える。


 流れるように連れて来られた俺の自室。ベットの上に転がる柚梪に続いて、俺もベットの上へと寝転がり、柚梪と向かい合う。


 すぐ目の前で柚梪が見つめてくる。恥ずかしくなって視線を下に向ければ、パジャマの一番上のボタンが外されており、柚梪の濃縮された胸の谷間が目にはいる。


「なんですか? そんなに胸をジロジロと」

「いや、別に……見てねぇし」

「嘘はダメですよ? しっかり見てたじゃないですか。ふふっ、えっちな人ですね」


 そう言われた俺は、柚梪の居る反対方向へと寝返りをする。


「あ……! そっち向かないでください……! 龍夜さんの顔を見て寝たいです……! ごめんないさい……! 謝りますから、こっち向いてください……!」


 背中の服をギュッと掴まれ、ぐいぐいと引っ張りながら、悲しそうな声で俺にそう言う。ぐるっと再度寝返りをして、俺は柚梪を抱き寄せる。


「ごめんごめん。そんの泣きそうな声で言わなくても」

「だって、龍夜さん怒らせちゃったと思ったんです……」

「なら、ちゃんと服のボタンをしようね」

「それは嫌です」

「なんで……!?」

「龍夜さんに胸を見てもらうために、あえてしてないんです」

「柚梪の方がえっちな人やん」


 全く、そんな柚梪が可愛いから許すが、恋人だからって……ちょっと積極的過ぎるし、攻め過ぎだ。まだ付き合ってから、1日経っていないんだぞ?


 しばらく俺と柚梪は、何も喋ることなく向かい合うだけの時間を過ごす。


「龍夜さん」


 すると、柚梪が小さな声で俺の名前を呼ぶ。


「ん?」

「あの……今日、こうして恋人同士になったわけですけど……ちょっと甘え方が激し過ぎたかなって、思ってしまって」

「まあ、確かにな」

「迷惑……でしたか?」


 柚梪のその言葉は、とても弱々しかった。どうやらかなり気になっているようだ。


「迷惑じゃないよ。むしろ可愛い柚梪が見れるからウェルカムよ」


 俺がそう言うと、柚梪はほのかに微笑み、俺との距離を少し詰めてくる。そして、俺にそっと顔を近づける。


「龍夜さん、キスしませんか?」


 俺の唇に当たる僅か1cmほどの距離で、思わぬことを言ってくる柚梪。突然過ぎにも程がある。


「い、今……?」

「はい。おやすみのキスが欲しいです」

「どうしても……?」

「欲しいです」

 

 ゴクリと唾液を飲み込むと、俺はそっと柚梪の後頭部に手を添えると、柚梪の頭をぐいっと近づけ、柚梪の唇に、俺の唇が重なり合う。


 数秒にも満たさない時間だったが、柚梪の甘くて柔らかい感触を味わう。


「えへへ、ごちそうさまです♡」


 なんかオタクのような事を言っているが、そこはスルーしておこう……。


 付き合い始めてから初日と言うのに……これから先が思いやられる……。



 


 

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