第79話 可愛いと可愛いの具現化

 園内を見回っては、乗り物に乗ったり、ちょっとした食べ物を食べたり、ゲーム的な遊びをやったりと、俺と柚梪は遊園地をすっかり満喫していた。


 時間も刻々と過ぎて行き、太陽もだんだんと沈んできた。


 一方、俺と柚梪は遊園地内にあるショップの前に来ていた。いわゆる、お土産を買うお店だ。


 誰かにお土産を買って帰るってわけじゃないけど、柚梪が入りたいと言うし、記念に何か買って行くのも良いだろうと思い、店内に入る。


 店内には、様々なお客さんが色んな商品を見たり、買ったりしてお買い物を楽しんでいる様子だ。


 種類も豊富で、クッキーと言った食べ物や、キーホルダー、文房具、服やぬいぐるみなど、見ていて飽きない品揃えだ。


「あっ! これ可愛い……でも、こっちの方が絵柄が好きかも……」


 商品を眺めて柚梪は、とても楽しそうな雰囲気だ。


 もちろん、柚梪の欲しがった物は出来るだけ買って行くつもりだが、多くなるのだけはやめてもらいたい……


「龍夜さん! 私、このヘアゴムとヘアピンが欲しいです!」

「あぁ。いいぞ」


 しかし、柚梪は食べ物やぬいぐるみ、文房具等には全く興味を示さず、ヘアゴムやヘアピン、服につける用の缶バッチとかしかねだってこない。


「柚梪、さっきからそう言う小さい物しか欲しがらないけど、お菓子とかはいいのか?」


 つい気になってしまった俺は、柚梪に問いかけてみる。


「正直、クッキーは食べてみたいなって思ったんですけど……値段がそこそこ高かったので、龍夜さんを困らせてしまうのではないかと思い……」


 なんだ、俺を気にしてくれてたのか。確かにクッキーと言ったお菓子系は、値段の張るものが多いが、そう言うことも想定して、出来るだけ多くお金を下ろしてきたんだ。


「気遣ってくれたんだな。ありがと、柚梪。でも、今日くらいは欲しいやつくらい、出来るだけ買ってやるよ。まあ、多すぎるのは勘弁だがな」

「い、いいんですか? お金……」

「いいんだよ。クッキーだっけか? ほら、選びに行くよ」


 柚梪の頭を優しく撫でたあと、柚梪の手を引きながら、お菓子コーナーへと向かう。


「どれが食べたいんだ?」

「えっと……これです」

「ほう、猫型のクッキーか。いいの選ぶじゃん柚梪。俺、猫大好きなんだよね」

「そうだったんですね。知りませんでした……」

「まあ、言ってないからな」


 柚梪が指差したのは、猫型をしたバニラとチョコ味の入ったクッキー。

 1箱30個入り。バニラとチョコで15個ずつだな。量が多い分、値段もつくが……俺が予測していた値段よりかは、少し安かった。


「よし、買って行こう。この値段なら、彩音達にも買ってやるか。まだ見回っていいぞ? 柚梪」


 猫型クッキーの箱を2つ手に取る。


 柚梪はまだ見て回りそうな雰囲気だったから、もう少し見て回りとするか。時間もあるし。


 俺と柚梪は店内を隅々まで見回った。


「お、この猫のメモ帳いいな……こっちの猫も可愛いぞ」

「ムゥ……(龍夜さん猫ちゃんばっかり見てる……あの猫ちゃんが羨ましいです……)」


 猫商品に目を引かれる俺の後ろで、頬を膨らませる柚梪。

 

 俺が猫を目を奪われており、しばらくは離れそうにない。そう感じた柚梪は、近くの棚を1人で見ることに。


「確かに猫ちゃんは可愛いですけど、もっと私を見てもらいたい……うっ……でも、可愛い……」


 柚梪も柚梪で、猫の可愛いイラストや絵柄に興味を引かれる。


 この世界において、猫とは癒しの塊なのである。


「……ん? これは……」


 そして、柚梪はある商品に目をつける。


 その後、ある商品を持った柚梪が、俺の側へと駆け寄ってくる。


「た……龍夜さん……」

「ん? どうした? 欲しい物が見つかったか?」

「……っ」


 すると、柚梪は少し下を向きながら、とある商品を頭へと持って行く……


「……え?」


 そして柚梪は、お店の中なのにも関わらず、両手を顎より少し低い位置で軽く握り、あるポーズを取る。

 

「……っ/// ニャン……」

「!?」


 ね……猫耳カチューシャだとォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!?!?


 最高に美人で可愛い女の子の柚梪が、世界で一番大好きな動物の耳を施したカチューシャをつけ、さらにはその動物の真似をする。


 しかも、顔を赤らめて恥ずかしがりながらも、透き通った美しい声で、その動物の鳴き声を物真似。


 まさに、可愛いと可愛いが合体した、世の中の猫好き男の心を奪う兵器となった。


 抱きつきたい……なでなでしたい……可愛いって言いまくりたい……けど、ここはお店の中。抑えろ、抑えるんだ俺ェ!!!!!


「これ……欲しいです」

「うん。買おう」


 柚梪の言葉に対して、俺が返答を出したのは、1秒にも満たさないような速さだった。




 やがて、買いたい物を一通り全て買い終わり、お店の外へ出ると、空はオレンジ色に染まりつつある。


「もう夕方か。なんだかんだ早かったな」

「そうですね。こんなにはしゃいだの……いつぶりでしょうか」


 本当なら、そろそろ帰る時間なのだが。あいにく、まだ俺にはやるべきことが残っている。


「じゃあ柚梪。約束通り、観覧車に乗ってから帰ろうか」

「はい! ずっと楽しみにしてました!」


 そう、観覧車。


 柚梪が乗ってみたいと言ってたのを、『良い景色が見られるから』と言って、夕方まで待ってもらっていたのだ。


 だが、観覧車から景色を見るだけじゃない。


 俺からすれば、この観覧車は……俺の人生を左右する、運命の時間となるだろう。


「さて……悔いのないように、後悔をしないように」


 小さくそう呟いて、ワクワクとする柚梪と一緒に、観覧車へと向かう。




 ついに、この時が来てしまったのか。

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