第77話 宝探し 前編

 柚梪の気になる所と言う場所を目指して約10分。


 俺と柚梪はある場所へやって来た。そこには、水の中に溜まっている茶色の砂に、小さな緑色のスコップがたくさんある。


 大人の人もやっているが、特に子供から人気なやつだな。


「宝探しか」


 そう、柚梪の気になっている所とは、この宝探しが出来る場所のことだった。

 

 水に浸かった砂の中から、スコップで宝石を掘り出すと言う、見たことはあるであろうお店だった。


「私、この宝探しってのが気になってたんです! なんだか楽しそうじゃないですか?」

「まあ、分からなくもないな」


 俺も子供の頃、1回はやった記憶がある。


 確かに、お宝を探している時は、『どんなお宝が見つかるんだろう』とか、『何個は見つけたいな』って思っていたっけか。


「懐かしいな。俺も昔やったことあるし、久しぶりにやるか」

「はいっ! たくさん見つけましょう!」


 柚梪と一緒にお店の中へ入ると、1人の男性店員さんがお出迎えしてくれた。


「いらっしゃいませ! 宝探しをご利用なされますか?」

「はい。2人分で」

「ありがとうございます。10分・20分・30分コースがございますが、どうされますか?」


 貼り紙に視線を誘導され、書かれた内容を読む。


 10分が700円、20分が1200円、30分が1800円……ね。つまり、30分コースの方が300円得するのか。


「30分コースで」

「ありがとうございます。では、先にお支払の方をお願い出来ますでしょうか?」

「分かりました」


 そして2人分のお支払が完了し、俺と柚梪はスコップが支給された。


 店員さんからの説明によると、この宝探しはダイヤモンドの形をした石が埋められているそうだ。

 全部で5種類の色があり、掘り出した色によって、貰える景品が違うとか。


 なるぼど。宝石ではなく景品形式なのか。これはこれで新鮮で面白い。まるでクジみたいだな。


 発掘部屋へ案内されると、広い部屋の中にはたくさんの採掘スペースがある。

 すでに、何人かの子供やその親、学生の人が採掘をしているようだ。


「こちらの採掘スペースなら、どこを採掘してもらっても構いませんので、30分間頑張ってみてください」


 そして、俺達の分のタイマーがスタートされた。


「よし、探すぞ柚梪!」

「はい! 狙うはもちろん、最高レアの『赤』ですね!」


 ここから俺と柚梪による、30分のダイヤモンドストーンの採掘が始まった。




 この宝探しの景品は、ダイヤモンドの色によって、貰える物が違う。

 まずは透明。これはいわゆるハズレ枠だ。

 次に緑、これはちょっとしたお菓子や物が貰える。参加賞みたいな感じだね。

 黄色は、ランダムで何かしらの石が入ったお守りだそうだ。パワーストーンとか入ってるらしいけど、正直いらないな……

 青色は、園内で販売されているジュースの無料交換券だ。これはありがたいな。

 そして、一番レアな赤色は、ここでしか手に入らない、オリジナルのボールペンだそうだ。なにしろ、ダイヤモンドのように輝くラメ入りみたいだ。


 ざっくりスコップを砂の中に入れては、掻き分けてを繰り返すが、今のところハズレすら見つかりそうにない。


 採掘スペースは余るほどある。そこから見つけ出さないといけないのだ。最悪1つも見つからない説が出てきてしまった。


 俺の反対側で採掘をする柚梪に目を向けると、頑張って掘ろうとはするものの、あまり腕が動いてないみたいだ。


「柚梪、どうした? 大丈夫か?」

「た、龍夜さん……これ、結構力を使うんですね……」


 そうか……普段から外に出たり、重たい物を持たないから、あまり力が出ないのか。


「まあ、確かに力は少し使うな。ほら、一緒にやってやるよ」

「ふぇ……!? た、龍夜さん……?」


 俺はスコップを近くに置くと、柚梪のスコップを持った右手を優しく握り、ゆっくりと採掘を始める。


「柚梪は少し深くまでスコップを入れ過ぎだ。もっと浅く入れないと、そりゃ力が尽きるよ」

「……/// はい……」


 柚梪に少し体を密着させながら、柚梪の右手を握って一緒に採掘をする。


 そして、徐々に慣れてきた柚梪は、1人でも採掘できるようになった。


「そうそう、言い感じじゃん。もう大丈夫そうだな。なら、俺は自分の位置に戻ろうかな」

「待ってください! 龍夜さん」

「ん?」


 元の位置に戻ろうとする俺を呼び止める柚梪。


「えと……一緒に採掘しませんか? 隣同士で」

「……っ、いいけど……」


 柚梪は上目遣いで俺の事を見つめてくる。


 なんだ……その瞳は。断れねぇじゃんかよ……。


 こうして、俺は柚梪の隣で一緒に採掘をすることになった。

 まあ、何か聞かれたらすぐに答えられるから、いいっちゃ、いいんだけども……


 せめて、顔をほんのりと赤く染めるのをやめて欲しいな。可愛いくてヤバイから。


 ザクザクと砂を掘り起こす俺と柚梪だが、始まって早くも10分を切ろうとしていた。


 今のところ特に成果はない。


 果たして、ダイヤモンドストーンを見つけられるのだろうが……

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