第76話 2人でレストラン

「ん? もうお昼みたいだな」

「そうなんですか? なんだか早いですね」

「まあ、元々遊園地に到着したのが、大体11時頃だったからな」


 園内に設置された、時計に視線を向けると、時刻は11時45分くらいだった。


 園内を見回っていて、柚梪が興味を示した乗り物を乗っていると、気がつけばなん十分も過ぎていた。


 そして、ちょうどよく目の前にはレストランが見える。せっかくだし、少し早いけどお昼ご飯を取るとしよう。軍資金はそれなりに持って来ているし。


「柚梪、あそこのレストランで何か食べようか」

「はい、分かりました」


 柚梪の手を優しく引っ張りながら、ゆっくりとレストランまで歩く。 

 

「いらっしゃいませ」


 レストランの中に入ると、女性の店員さんがお出迎えをしてくれた。

 レストラン内には、俺達と同じく昼食を取る人達がたくさん居る。いろんな料理のいい匂いが漂ってきて、ますますお腹が減ってしまった。


「2名様でよろしいですか?」

「はい」

「かしこまりました。では、お好きな席へどうぞ」


 俺と柚梪は、出来るだけ周りに人の少ない席を選び、お店の中央奥で向かい合いながら、椅子に座る。


 お品書きで手に取り、ページをめくると様々な料理と金額が書かれている。


「うわ~、いっぱい種類がありますね」

「そうだな。どれにしようか迷うな……」


 お肉類はもちろん、麺類や定食、カレーと言ったその他も種類は豊富だ。


 だが、せっかく来たんだし、普段は食べないような物を食べて帰りたいよな……


「柚梪は何か食べたいのある?」

「う~ん……どれも美味しいそうで決められないです……」

「俺、このステーキ定食ってのにしようと思うんだけど、柚梪もこれにする?」

「じゃあ……お願いします。私は決められないですので」

「りょーかい」


 俺が選んだステーキ定食は、メインのステーキと一緒に、ご飯とお味噌汁に、ちょっとしたサラダのついたセットメニューになっている。


「あと、唐揚げも食べたいから、別で頼んで摘まもう」


 唐揚げはサイドメニューで、注文すれば5つの唐揚げを持って来てくれる。


 そして俺は、テーブルの端に置かれたボタンを押すと、店内に『ピンポ~ン』とインターホンのような音が鳴り響く。


 これは、店員さんを呼ぶためのボタンだ。


 数分後、先ほどお出迎えをしてくれた女性の店員さんが駆けつけてくれた。


「お待たせしました。ご注文でよろしいですか?」

「はい。えっと……ステーキ定食が2つと、唐揚げをお願いします」

「かしこまりました。ステーキ定食がお2つと、唐揚げがお1つですね。すぐにお持ちしますので、少々お待ちください。では、失礼します」


 一礼した後、店員さんは店の奥へと戻って行く。


 注文するついでに、店員さんが持ってきてくれた冷えたお水を飲みながら、柚梪とお喋りをして料理を待つ。


 


 それから約15分ほどすると、注文した料理が俺達の元へと届く。


「お待たせしました。ステーキ定食と唐揚げになります。少々お熱いので、お気をつけくださいませ」


 俺と柚梪の前にステーキの乗ったお皿や、ご飯とお味噌汁にサラダがまとめて乗せられた、大きめのお盆が出された。


 俺と柚梪の前に置かれたお盆の間に、唐揚げが5個乗ったお皿がある。


「では、ごゆっくりどうぞ~」


 そう言って、一礼をした店員さんは料理を運ぶ用の、車輪がついた台を転がして、その場を去っていく。


「うわ~、美味しそうです!」

「冷めないうちに食べようか」


 俺はテーブルに設置されたケースの中から、フォークとナイフを2本ずつ取り出し、柚梪に1本ずつ手渡す。


「いただきます!」

「いただきます」

「あの、早速なんですが、このお肉はどう食べればいいのでしょうか?」

「あぁ、そう言えば教えてなかったな」


 今まで柚梪に食事をする時に使うナイフを持たせたことがなかったのを思い出す。


「まず、フォークを左手に持って、ナイフを右手に」

「はい……こうですか?」

「そうそう。フォークで肉を軽く抑えてながら、ナイフで一口サイズにカットするんだ。そしたら、フォークで刺して食べる」

「なるぼど……」


 俺は実際にやって見せると、柚梪も合わせて真似をしてくる。


 フォークでステーキを抑え、ナイフで切る。一口サイズに切ったステーキを、一緒についている専用のソースにちょこっとだけ浸けて、口へ持っていく動作をする。


「うん。出来てるじゃないか。簡単だろ?」

「はい。思ってたより簡単でした。じゃあ、いただきます」


 俺と柚梪は共にステーキを口に入れる。


 焼きたてのステーキを噛むと、熱々の肉汁が口の中に染み渡り、専用のソースがお肉自体の美味しさと合わさって、より美味しさが増している。


「ん~~っ! 美味しいです! なんだか食べるのがもったいないくらいです」


 ナイフを置いて、空いた右手で頬を抑えながら、すごく幸せそうな顔をしてそう言う。


「可愛いな」

「え? 何か言いました?」

「いや別に。柚梪が可愛いなぁ、て思っただけ」

「……っ! きゅ、急過ぎませんか……? 不意打ちにもほどがありますよ……///」


 ほんのり顔を赤らめる柚梪に微笑みながら、俺も食事を取り進める。

 一方、柚梪は顔を赤らめたまま、『ムゥ』と小さく言いながら、ゆっくりと食べ進める。


 ちょっとした雑談をしながらも、ステーキ定食を食べ進め、一緒に食事を楽しんだ。




「ご利用ありがとうございました! またお越しくださいませ」


 お会計を済ませて、柚梪と一緒にレストランを出る。腹も満たされた所で、再び遊園地を楽しむとしよう。


「さて、お腹も満たしたし、どっか行きたい所はあるか?」

「あ、じゃあ私、1つ気になったのがあったんです。そこに行ってみたいです!」

「分かった。んじゃ、そこに行くとするか」


 柚梪の手を繋いで歩き出す俺達。


 今の俺達は、他の人達から見ると、どう思われているのだろうか……いや、俺の考え過ぎか。

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