第75話 初めての遊園地

 朝11時頃。30分ほどバスで移動してきた俺と柚梪は、無料チケットを2枚スタッフさんに渡し、フリーパスと交換してもらった。


 そして、遊園地の中へと入場。数え切れないとほどの遊具にお店があり、盛大な音楽が俺達を迎え入れる。


「うわ~っ!」


 初めての遊園地に、周りを見渡す柚梪は、まるで子供みたいに目を輝かせていた。


 交換して貰ったフリーパスは、入場及び乗り物が全て無料となる。

 お店で食べ物や飲み物を買ったり、景品の貰えるゲーム的な要素には、別の料金がかかる。


 だが、実際ならアトラクションに乗るためには、遊園地内で販売している、アトラクション券を購入する必要があるため、それなりにお金が必要。

 でも、フリーパスのおかげで、アトラクションは全て無料だ。非常にありがたい。


「乗り物に関しては、今日だけ無料で乗れるから、好きなだけ乗っていいぞ」

「えっ! 本当ですか! いっぱいありすぎて悩んでしまいます!」


 ずっと遊園地に興味があったのだろうか? 柚梪はすごくテンションが高いみたいだ。


 だが、平日にも関わらず人が非常に多い。これでは、最悪はぐれてしまうかもな。


「じゃあ行こうか。柚梪」

「……! はいっ!」


 俺はそっと柚梪に手を差しのべると、柚梪は喜んで手を繋いだ。




「龍夜さん、これは何の乗り物なんですか?」


 園内を歩いて回ると、最初に柚梪が興味を示した乗り物を、指を指して俺に質問してくる。

 

 その乗り物には、たくさんの白馬がある。


「あぁ、メリーゴーラウンドだな。あの白馬に乗って、グルリと何周かするやつだな」


 メリーゴーラウンド……それは、回転する床上に、回転する床に合わせて上下に動く、馬に似せられた座席のある遊具のこと。


「一緒に乗る?」

「はい! 乗りたいです!」


 柚梪が乗りたいと言うので、俺はメリーゴーラウンドを管理するスタッフさんに、フリーパスを見せてから、近くの白馬に股がる。


 一緒に乗るとは言っても、白馬は1人用だから、柚梪の隣にある白馬に俺は座る。


 すでに数人のお客さんも所々に乗っており、少ししたあと、スタッフさんの合図によって、床が音楽と共に回転し始める。


「うわ~! 動きましたよ! 龍夜さん!」

「はいはい。落ちないようにな」


 白馬が上下にゆっくりと動きながら、実際に馬に乗って走っているかのような感覚を楽しむ柚梪。


 フワッと綺麗なねずみ色の髪を、空中で泳がせながら、遊具を楽しむ柚梪の笑顔は、見ているだけで実に微笑ましい。


 そうして、何周かすると床の回転がゆっくりと停止する。

 完全に止まると、俺と柚梪は白馬から降りて、出口からメリーゴーラウンドの外に出る。


「爽やかな風に吹かれながら、お馬さんに乗ったような気分が味わえて、すごく楽しかったです!」

「そうか? ただ馬に乗ってただけなんだけど」

「もうっ、細かい所は気にしなくていいんですっ! それより、早く次に行きましょうよ!」

「分かったから、そんなに急がない。時間はまだまだあるから」


 どんどん進もうとする柚梪を抑えながら、俺達は再び園内を歩きだす。




 続いてやって来たのは、遊園地ならよく見る、大きなカップの乗り物。


「龍夜さん! 大きなコップがたくさんありますよ!」

「コーヒーカップか。これも遊園地の定番だな」


 コーヒーカップ……別名、ティーカップとも呼ばれる。回転する床の上に、大きなマグカップがついた遊具だ。真ん中の円盤を回転させると、床とは別にカップ自体も回転させることが出来る。


 高校時代の修学旅行で、友達3人と乗って、円盤を激しく回して過ぎたせいで、とんでもなく目が回った記憶が懐かしい。


「乗るんでしょ? 行くよ?」

「……! はいっ!」


 乗りたそうにコーヒーカップを眺める柚梪に、そう言いながら手を引っ張る。


 スタッフさんにフリーパスを見せて、真ん中辺りのカップに、柚梪と対面になるよう座る。

 当然コーヒーカップにも、お客さんは居るが、その内俺達を除いた3組はカップルだろう。


 スタッフさんの合図と同時に、床がゆっくりと回転を始める。


「……っ! これ、回るタイプなんですか!?」

「ん? そうだよ? もっと早くなるからな」

「ふぇぇ!?」


 数秒後には、回転の速度が早くなり、床とカップの二重回転が柚梪を襲う。


「うわぁぁぁ……目が、回って……」

「おいおい、まだ始まったばかりだぞ?」

「私は……負けませんよ……!」


 俺は円盤をくるくると回して、カップ自体をさらに回す。


 そして数分後、床の回転がゆっくりと停止する。


「あぁ……私、負けました……」


 目が回ってふらふらとする柚梪を支えながら、コーヒーカップから出ると、近くのベンチに座らせる。


「大丈夫か? 少し回し過ぎたかな?」

「はい……回し過ぎですよ……龍夜さん……」


 片手で頭を抑える柚梪。少しやり過ぎてしまったようだ。


 ある程度落ち着くと、目を開いた柚梪は、ある大きな乗り物が目に入る。


「あの、龍夜さん……あの大きな乗り物はなんですか……?」

「ん? ……あぁ、観覧車か」


 観覧車……遊園地には必ず存在するであろう、大きな車輪状の乗り物。車輪状のフレームの周囲についた、ゴンドラと呼ばれるものに人を乗せ、低速で回転させることで、高所から景色を眺めることが出来る。


「あれが観覧車なんですね! 私、小学生の時友達から聞いた頃から、ずっと乗ってみたかったんです!

あれに行きましょう!」


 柚梪は、俺の手を引っ張って、観覧車へと向かおうとしていた。


「いや、まだ行くべきじゃないな」

「え? そうなんですか?」


 俺がそう言うと、柚梪は不思議そうに首をかしげる。


「観覧車は高い所から景色を眺めることが出来るんだ。だから、夕方とかの方が綺麗な夕日を見ることが出来るだろ?」

「あ、確かに。友達も、夕日がとっても綺麗だって言ってた記憶があります」

「そうだろ? だから、観覧車はに行こうな」

「はい!」


 目眩が治った柚梪を連れて、さらに園内を見ながら歩き回るのだった。

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