第74話 決心
翌日、いつもよりバイトを早めにあがらせてもらい、少し不足気味だった食材を、ショッピングモールへと買い出しに行っていた。
時刻は夕方の5時30分を過ぎたところだ。
今回に関しては、夜に作ろうと思っていた料理の食材が不足していただけだから、そんなに荷物はない。
買う物を一通り買って、持ってきたショッピング袋を取り出し、会計を済ませようとしていた時、店員さんが、ある物を渡してきた。
「ご利用、ありがとうございました。こちら、購入された金額が1000円ごとに一枚、お配りしております」
そうして、若い女性の店員さんから貰ったのは、あるチケット。
「このチケットを3枚集めることで、中央エリアにて開催中のガラポンを1回ご利用出来ますので、是非立ち寄ってみてください」
このチケットは、ガラポンを回すための物らしい。
1000円分購入するごとに1枚。それを3枚集めることで1回ガラポンを回すことが出来ると。
今回は6000円分だから、ちょうど2回出来るのか。と言うよりも、3000円で1回か……少しコストが高いな。ま、そんなもんか。
購入した商品をショッピング袋に入れると、そのお店を出る。
「ガラポンか……あんまし興味ないけど、せっかく貰ったし……やって帰るか」
いつもならショッピングモールの出口に向かうのだが、少し方向を変えて、中央エリアを目指す。
それから数分間歩くと、徐々に中央の広い空間が見えてくる。
それと同時に、カランカランと鐘のなる音も聞こえてくる。
確かに中央エリアのさらにど真ん中で、ガラポンをやっているようだ。買い物にきたお客さんがそれなりに並んでいる。ざっと15人近くは居るか。
そのまま歩いて近づいた俺は、当たる景品のラインナップチラシを見る。
それぞれ、1等~5等まであり、1等から順番に金・赤・青・黄・白となっているようだ。
なるほど、1等は消費電力の少ないこたつか。今は使えないが、少しずつ冬になっていくし、悪くない。
2等が遊園地の無料チケット3枚か。場所的に、ここから近くにあるそこそこ広い遊園地のようだ。
3等は3000円分のお買い物券……ね。少ししょぼくないか?
あとの4・5等はいわゆるハズレ。ちょっとしたお菓子やポケットティッシュ。
まあ、しょせんは買い物した時のおまけだからな。だいたいこんなもんか。
列にならんで数十分、俺の出番がやってくる。
前にいた15人くらいの人達は、せいぜい当たって3等だった。どのくらい玉の数が減っているかは知らないが、少しチャンスなのでは?
僅かに期待しながらも、ガラポンのチケットを6枚提出する。
「はい、2回のご利用ですねっ! どうぞ!」
気前の良さそうな男性の人からそう言われ、俺はガラポンについた取っ手を軽く握る。
ガラ……ガラ……
ゆっくり一回転させると、出てきた玉の色は白色。
「あぁ、残念。5等ですね。もう一回どうぞ」
言われるがままに、俺はもう一度ガラポンをゆっくり一回転させる。
そして、次に出てきた色は、なんと赤色。
「おぉ! おめでとうございますっ! 2等が当たりましたぁ!」
男の人は鐘を持って、カランカランと鳴らす。
「マジか、当たるんかよ」
「こちら、遊園地の無料チケットでございます。こちらを提出すれば、フリーパスが貰えて遊具も乗り放題ですので、是非行ってみてはどうでしょう?」
「へぇ……遊具乗り放題か……」
なんだ、ただ入場が無料なだけで、遊具に乗るためのチケットは別で金がいるのかと思った。
それなら、かなり価値はありそうだ。
チケットを財布に入れて、俺はショピングモールから外に出る。
「遊園地……か。そうだ、ちょうどいい機会だ。このチケットを有効活用させてもらとしよう」
その日の夕方6時頃、俺は家に到着する。
「ただいま」
「あれ? 龍夜さん、今日は早いんですね。お帰りなさい」
玄関の扉を開くと、ちょうど柚梪と鉢合わせる。
「そうだ、柚梪。少し時間あるか? 話があるんだけど」
「えっ? は、話……ですか……? はい、分かりました……」
なぜか少し顔を赤くする柚梪だが、俺は柚梪を連れてリビングへと向かう。
ダイニングテーブル越しに椅子へ座って向き合うと、早速俺はガラポンで当たった景品を、柚梪の前に差し出す。
「これ、なんだと思う?」
「え? なにかのチケット……ですか?」
柚梪は、思っていた内容とは全く違うことで、少しきょとんとした。
「これ、今日バイトを早く終わらせてもらって、夕飯用の食材を買ってたんだけどさ、なんかクジみたいなのを回せるチケットを貰ったんだ」
「クジ……ですか?」
「そうそう。まあ、正式にはガラポンって言うんだけどね、それやったら……2等のこれが当たったのよ」
「2等ですかっ! すごいじゃないですか!」
おや? 柚梪は2等の価値を知らないと思っていたが、知っているのか。なら話が早い。
そして俺は、本題に入る。
「これ、遊園地の無料チケットなんだ」
「遊園地……ですか?」
「そう。今日帰るついでに、電話で店長に明日お休みにしてもらったんだ。一緒に行かないか?」
「えっ! いいんですかっ! 私、ずっと遊園地って場所に行ってみたかったんです!」
柚梪は目を輝かせて、盛大に喜ぶ。
『行かない』って言われたらどうしようって思っていたが、どうやらその心配はいらないみたいだな。
「じゃあ、明日は朝10時くらいから出ようか」
「はいっ! 分かりました!」
どうやって…………ようか迷っていたが、運がいいな。この機会に、…………するとしよう。
そう俺は決心したのだ。
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