第73話 禁断の知識

 リビングの入り口及び出口にて、俺からスマホを受け取り、耳にあてる柚梪。


「もしもし……? 変わりましたけど……」

『あっ! 柚梪ちゃんこんばんわ~!』

「こ、こんばんわ……」

『あれ? なんか疲れてる感じかな? ちょっと息が荒いような……?』

「いえっ! 気のせいですよっ!」


 当然、さっきまで耳をひたすら舐められていたとは言えるはずがない。


『それで、お兄ちゃんとは上手くいってる?』

「えっと……どうなんでしょうか……多分、いい感じではないでしょうか……?」


 いい感じ……と言うよりかは、俺の溜まった欲が爆発しただけなんだがな。


 だが、間違いなく良い方向に進んでいるのは確かだ。


『そっかそっか~! こりゃ、お兄ちゃんと柚梪ちゃんがくっつくのも、時間の問題かなぁ~?』

「……っ! もう、急かさないでくだいさいっ! 私だって……すごく恥ずかしいんですからね!」


 顔を赤くしながら、俺に聞こえないよう、出来るだけ声を小さくして彩音と話す。


 そして、柚梪は気になっていた事について、彩音に問いかけてみるのだった。


「あの……彩音ちゃん」

『なになに~? 何かを聞きたそうだね』

「はい……その、龍夜さんの……固い何かについてなんですが……」

『ふむふむ。お兄ちゃんの固い何か……え?』


 柚梪の質問を聞いた彩音は、ピタリと声を止める。


「えっと……彩音ちゃん……?」

『あぁ、ごめんごめん。ちょっと聞き取れなかったかも。もう一回お願い』

「だから……龍夜さんの固いな……」

『あ、うん。聞き間違えじゃないね。もういいよ』


 彩音は少し焦り気味にそう言う。


 確かに、固い何かって聞いたら、どうしてもあっち方向の思考になってしまうのも無理はない。しかし、まだ完全に『そう言う事』だと分かったわけではない。


『うーん……その固い何かって、どうやって感じたの?』

「どうやって……とは……?」

『えっと……どういう体制で、どこで固い何かを感じたのかってこと』

「確か……お風呂に入ってる時、龍夜さんの膝の上に座って……いっときしたら、太もも辺りから固い何かを感じたました」

『あっ、間違いないやつだ……これ……』


 すると、突然彩音の声が、ワントーン下がった。まるで、何かをさとったかのように。


『あぁ……とうとうお兄ちゃんが……柚梪ちゃんに『反応』しちゃったのかぁ……』

「反応……?」


 柚梪は聞き慣れない単語に、首をかしげる。


『柚梪ちゃん。今、お兄ちゃんは近くに居る?』

「えっ? はい、一緒のリビングに居ますけど……」

『声は聞こえてるの?』

「いえ、聞こえてないと思います」

『なら、その固い何かについて教えてあげるから、お兄ちゃんの居ない所に移動して』

「は……はい」


 柚梪は、彩音の指示通りリビングを離れ、2階にある俺の自室へとやってきた。


 今となっては、柚梪が寝る用となった俺ベットに腰を下ろし、スマホを耳に再び近づける。


「はい、1人になりました」

『よし……じゃあ、1回しか言わないからね? よく聞いておくんだよ……?』

「はっ……はい! 分かりました……!」

『お兄ちゃんの固い何かってのはね……』


 柚梪は、ゴクリと唾液を飲み込むと、ゆっくりと話始める彩音の声に、集中する。




 それから約30分。


 彩音は柚梪に話を終えると、全てをしっかりと聞いていた柚梪は、顔をこれまでにないほど真っ赤に染め上げていた。


「あわわわわ…………///」


 柚梪はとうとう、禁断の知識を得てしまったのだ。


 一方、話す側であった彩音も、全く喋らなくなってしまった。おそらく、彩音も頭がパンクしてしまったのだろう。


「つ……つまり、太もも辺りに感じた固い何かって……龍夜さんの、赤ちゃんを作るための……」

『そう、だよ……』

「あの……固い何かが女性の……」

『うん……それ以上言わないで……恥ずかしい……』


 そう、柚梪は彩音によって……『子作り』の知識を得てしまったのだ。


(と言うことは……龍夜さんのアレが固くなったのは私と……)


 次の瞬間、柚梪は頭から蒸気を放ち、ばたりとベットに横たわる。


『と、とりあえず……まだ先のお話だから……! 私、ちょっと熱っぽいし、これで切るね……!』

「……! 待ってください……!」


 彩音は恥ずかしくなったあまり、電話を切ろうとするが、柚梪が瞬時に呼び止めた。


『な……なにかな……? 柚梪ちゃん……』

「その……さっき、彩音ちゃんが言った通りにすれば……赤ちゃんが

出来るんですよね……?」

『え……? そ、そうだけど……まさか柚梪ちゃん……興味あるの……?』

「……///」


 赤い顔のまま、黙り込んでしまう柚梪。


 何も返事が返ってこないことで、彩音は察した。


『そっか……そこまで、発展しちゃってたかぁ……参ったなぁ……』

「どうすればいいですか……?」

『柚梪ちゃん……本当に、の?』

「……/// ほ、ほんの……少しだけ……」


 彩音と柚梪の間に、とても気まずい空気が流れる。お互いに心臓をバクバクとさせながら、スマホを耳に当てて、硬直が続いた……


『えっと……うぅ……はぁ、仕方ない……子どもが出来ないようにする道具があるから、今度買っておいてあげるよ……』

「ほ……本当、ですか……? そんな道具が……」

『うん……次会った時に渡してあげる。でも、少なくとも付き合ってすらないのに、しちゃ……ダメだよ? これはガチで』

「は……はいっ……! (だから龍夜さん……必死に我慢したり、逃げてたりしてたのかな……?)」

『じゃあ……おやすみ……』

「お、おやすみ……なさい……」


 こうして、彩音と電話を切った柚梪。


 スマホをベットの上に置くと、枕をギュッと抱きしめる。


「もし……龍夜さんと、特別な関係になれたら……」


 変な事を考えてしまった柚梪は、両足をバタバタとして、枕に顔を埋めるのだった。


 その後、俺の顔を見るのが恥ずかしくなった柚梪は、俺の顔を極力見ないようにスマホを返すと、歯を磨いて、いつもより2時間近く早めに寝たみたいだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る